まずは、情報を扱う目的から改めて考えます。今回、目的は、ビジネス、特に新規事業や既存の枠組みに収まらないサービスを考えるというような場合に絞ります。
新規事業や既存の枠組みに収まらないサービスを考えるというような際に、必要なこととしてよく言われることは、「問題発見」や「問題解決」ではなく、「問題設定」そのものである、ということです。今ある問題整理のフレームワーク、業界の構造、そういった既存の枠組みを前提にした発見と解決を是とするのではなく、その枠組み自体を見直し、問題そのものを定義・設定するという考え方です。
「問題発見」も「問題設定」も、目の前にある事象や耳にした事象をインプットし、解釈して、思考するというプロセスにおいては、いずれも情報処理であると言えます。では、問題発見で留まるか、問題設定まで遡れるか、何がそれを分けるのかということが次に問題となります。
情報という観点では、既存の枠組みで考えるということは、意図的なものの見方による「意図した情報」と言い換えることができそうです。これが問題発見的アプローチ。一方で、既存の枠組みでは解釈が難しい情報は「意図しない情報」となります。これが問題設定の源泉。一方で、問題発見であろうと問題設定であろうと、その情報が「有用か」「有用でないか」という軸があります。わざわざ図にするほどでもないですが、以下のような感じ。
このマトリックスで考えると、問題設定に求められる情報は、いかに右上のオレンジ枠の「意図しない有用な情報」を扱えるかということだと思われます。わかりやすい言葉で言うと、セレンディピティ(Serendipity)でしょうか。ただ、ここで気にしなくてはいけないことは、人の情報処理における一次的なインプット段階において、情報は一旦ブルーの枠に放り込まれるということだと思います。まあ考えれば当たり前なのですが、左下のグレーの枠は意図している枠組みの中で有用ではないものなので即オミットできますし、右上のオレンジの枠は意図していない訳なので最初は有用性に気付かずいきなりここに入ってくることはない。
そう考えると、オレンジ色の「意図しない有用な情報」を扱うということは非常に高度な技術であることがわかります。なぜなら、意図していない、枠組みの存在しない中に飛び込んできた情報に、縦方向の有用かそうでないかの「解釈」を入れる必要があるからです。しかも、その「解釈」は単純にAだからBといったような線形なものではなく、循環したり、ジャンプしたり、クロスしたり、アナロジーだったり、うまく言えないですが「発想」のようなものが加味されたものになります。
最近まで、私の中ではオレンジの枠を増やすためには、いかに自分の専門外や一見関係なさそうな情報に触れる機会を作るかとか、いかに全く世界の異なる人に会うかとか、その量を増やすために、情報の種類やカバーを意識してきていたように思います。つまり、オレンジの枠にいきなり放り込むことを考えていたのかと。もちろん、そういった機会を作ること自体は重要です。それがないと情報が全く入ってこなくなるので。
一方で、アンテナを張るということそれ以上に、入ってきた情報をいかに丁寧に色々な角度から解釈するかということの方が重要なのではないかと考え始めています。つまり、右下のブルーから右上のオレンジに情報を移す作業に時間をかけるということです。時間は有限で、ゴールはオレンジの枠を増やすことですから、むしろ情報ソースを減らすことで解釈に時間や意識を集中するということも一手なのかもしれないなと思っています。
ここで改めてタイトルのセレンディピティ(Serendipity)という言葉に触れますが、これまで書いてきたような文脈で、意図しなかった意味あるものとの遭遇、という意味合いでよく使われる言葉です。Wikiによると下記の意味合いだそうです。
セレンディピティ(英: serendipity)は、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉である。まあ、表層的な現象だけ捉えると「見つける」という「発見」の力なのですが、その本質は上述のようにブルーからオレンジに持っていく「解釈」の力なのではないかなと思ったり。
最後に、「解釈」の力が、「意図しない有用な情報」の取り扱いやセレンディピティにおいて重要だというと、陥りそうなジレンマについて。そのジレンマとは、解釈というものは、そもそも自分の中にある既存の枠組みや思考に規定されがちということです。右下に入ってきた情報を解釈しているうちに、左上とか左下とか既存の枠組みの中に無理やり情報を押しこむ解釈するという、本末転倒な結果に陥る可能性があるということは、かなり意識しないといけないポイントなのかと思います。
(これを防ぐには何が必要なのかというところが鍵なのですが、まだ考えがまとまらないため、結論のないまま今回は終わります)