2012年3月29日木曜日

企業の存在証明 -リサーチ会社はリサーチを使って意思決定しているのか-


突然ですが、もしもこんな会社に営業されたらどうですか?
  • 自動車の営業マンがプライベートではマイカーを持っていない
  • 生命保険の販売員が生命保険に入っていない
  • 新聞社に勤めているのに自宅では新聞をとっていない

このようなことが実際にあるのかどうかは知らないですが、仮にそのような実態があるということをお客さんが知ったら、きっとその会社の商品・サービスを買うのを躊躇してしまうのではないでしょうか。自社の商品・サービスを実際に使い、その利用価値や使い勝手に精通しているということがその企業の存在証明の大事な一つかと思います。まずは自分たちからということで、自社の製品・サービスについてその効果を身を持って示さないと、お客さんからの信頼や共感は得られないでしょう。

・リサーチサービスの企画にリサーチは活用されているのか
翻って、リサーチ会社はどうでしょうか。つまり、「リサーチ会社はリサーチを使って意思決定しているのか」という疑問です。例えば、リサーチ会社はどのようにして新しいサービスを企画・開発しているのか。

ところで、企画の世界では、新しいサービスを企画する際にリサーチを活用できるかどうかという是非論はよく聞かれる話で、以下の故スティーブ・ジョブスの言葉が有名です。
「「顧客が望むモノを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、何を望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。ヘンリー・フォードも似たようなことを言ったらしい。「なにが欲しいかと顧客にたずねていたら、『足が速い馬』と言われたはずだ」って。欲しいモノを見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんてわからないんだ。だから僕は市場調査に頼らない。歴史のページにまだ書かれていないことを読み取るのが僕らの仕事なんだ。」
「アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明したとき、市場調査をしたと思うかい?」

これ、リサーチ会社が「いや、その通り。うちのサービス企画は基本的にトップの発案ベースか、もしくは懇意なクライアントのニーズドリブンで作ってみる感じ。それが他にも売れればめっけもんという感じですかね」という感じだったらどうでしょうか。これはある種の自己否定であり、クライアントもそのような会社からはリサーチをお願いしたいとは思わないでしょう。

また、リサーチの是非論に対抗すべく、独自性が高く競合優位なサービスが「リサーチの活用」で見出せると言うならば、リサーチ会社のサービスはもっと多様に各社個性のあるラインナップになっても良いはずではないでしょうか。こう言ってはあれですが、各社似たようなサービスばかりのような気がするようなしないような。。

・リサーチ会社の経営におけるリサーチ活用の実態は
上記では例としてリサーチを用いた新サービスの企画を取り上げましたが、他にも、下記のような目的・用途で、自社サービスをクライアントに対して営業したり、コンセプトとして打ち出したりしていると思います。それぞれ翻ってリサーチ会社は自社の戦略立案、意思決定にはどの程度活用できているのでしょうか。そしてそれをケースとして紹介できているのでしょうか。
  • 【 サービスの企画 】
    社内企画部署での机上の議論だけに閉じて企画をやってないか?懇意にしているクライアントの声だけ聞いてないか?
  • 【 サービスの仮説検証・改善 】
    新しいサービス企画を世に出す前に仮説検証はされているか?あるいは定点的に検証・改善を行うためのモニタリングをできているか?
  • 【 サービスの本質的な見直し 】
    営業的なヒアリングに基づく「オペレーションの改善」だけではなく、何かしらの調査に基づく「バリュープロポジションの見直し」はされているか?
  • 【 定量的な市場把握 】
    経営計画という側面では当然「リサーチ市場」の規模をばっくりと把握はしていると思うが、個別のサービスライン毎に市場規模や展望を定量的に把握できているか?
    (例えば、定量/定性調査の市場規模を営業マンに聞いて答えられる人はどれくらいいるのだろう。。)
  • 【 顧客の声の傾聴 】
    顧客の声を多面的に拾う仕組みはどの程度整っているのか?
    (現状は営業が聞くくらい、あるいはCS調査くらいか?ソーシャルメディアやコミュニティを使った傾聴だと言って、自分たちは何かやっているか?)
  • 【 その他(Co-creation、Ideation等)】
    「客とともに創る」「オープンイノベーションを行う」といった新しい声の拾い方・活用の仕方にチャレンジしているのか?

上記、実情がわからず書いていますが、実際どうなのかなと。

・自社品・サービスを活用した場合のアウトカム見える化が求められている
こういう話をしていると、「自分が一消費者でもあるB2Cと、法人相手のB2Bは違うんだよ」という声もありそうではあります。

しかし、例えばB2Bの典型である材料メーカーでも、その材料がどのように有用なのか、どのような完成品への応用があるのか、完成品の試作に乗り出すということをやっているようです。このように、自社がまずは自社品・サービス活用の実践者になり、活用すればどのようなアウトカムが期待できるのかという実践例を提示することへの要請は強くなってきているように思います。

例)東レ、炭素繊維を使った次世代型EV試作 4割超の軽量化実現


リサーチも守備範囲が広くなり、また従来型リサーチはどうなのかという疑問の声も挙がりつつある中で、その目的や用途に応じた実践例の提示が求められているように思います。リサーチ会社は、企業レベルで「何をやるか」の検討に、リサーチの活用を進めるべきではないでしょうか。そこで何か新しい方向性を見出せるのであれば、クライアントもリサーチの効用を理解するに違いありません。

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