2012年6月19日火曜日

制約はイノベーションの母 -名詞ではなく、動詞で考える-


何か画期的なアイデアを出しましょう、これまでにない発想で考えましょう、といった場合に、よくやるのがまずはゼロベースで様々な規制・慣習やリソース(ヒト・カネ)の前提を「取っ払って」議論してみるというやり方です。確かに、本当にその前提は崩せないのか疑ってみる、発想が行き詰った時に一旦大きく考えを振ってみる、といったケースには非常に役立つやり方であると思います。

ただそれと実現性を無視することとは大きく異なります。実際の世界には制約が満ち溢れています。お金がない、時間がない、技術がない、資源がない、などなど。これは無視しようにも無視できません。(一定の工夫はできるでしょうが)

では、この「前提を取っ払って考える」ということの本質は何なのか。

■実際の世界は制約だらけ
実際の世界には制約が満ち溢れている、この代表例がBOP(ボトム・オブ・ピラミッド)の世界かと思います。このBOP市場にイノベーションが生まれえないのかというと、そんなことはありません。一昨年亡くなったC.K. プラハラード教授の著書『ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略』で、一躍BOP市場やそこでのイノベーションに注目が集まりましたが、制約をうまく活用(回避?)したアイデアや、場合によってはその制約があったからこそ先進国では発想できなかったようなイノベーションが生まれています。

このBOP市場における制約を超えるイノベーションの事例は下記の書籍に詳しかったです。ビジュアルも多くて読みやすい。

『なぜデザインが必要なのか――世界を変えるイノベーションの最前線』

『世界を変えるデザイン――ものづくりには夢がある』

一つ目の書籍に掲載されている事例はほぼこちらのサイト(英語)に網羅されているのでご参照ください。

■制約はイノベーションの母
ここで重要なのは、「制約があるからイノベーションが生まれる」のではなく、「制約があるからイノベーションを生む必要がある」という点ではないかと思います。つまり、待っていれば勝手にイノベーションが生まれるのではなく、制約を受け止めそこからプロアクティブにイノベーションを起こそうとしてこそイノベーションは生まれる、ということです。まあ当然のことではあるのですが。

この制約をうまくイノベーションに活かすという考え方、デザイン思考という文脈ですが、IDEOのCEOティム・ブラウンの著書『デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方』でも言及されています。
相反するさまざまな制約を喜んで(特に熱烈に)受け入れることこそ、デザイン思考の基本といえる。多くの場合、重要な制約を見分け、その評価の枠組みを制定するのが、デザインプロセスの最初の段階だ。制約は、成功するアイデアの三つの条件と照らし合わせると理解しやすい。それは、「技術的実現性」(現在またはそう遠くない将来、技術的に実現できるかどうか)、「経済的実現性」(持続可能なビジネス・モデルの一部になるかどうか)、「有用性」(人々にとって合理的で役立つかどうか)の三つだ。

■制約がある中でイノベーションを生むためには
ここで冒頭に言及した、「前提を取っ払って考える」ということの本質、に戻るのですが、制約の中から生み出すイノベーションにおいて非常に重要になることは、「視座を広げる」ということであると思います。これが「前提を取っ払って考える」ということの本質ではないかと。

「視座を広げる」という意味を理解するためには、『デザイン思考の道具箱―イノベーションを生む会社のつくり方』という書籍に紹介されていた下記の記述が良いヒントになると思います。
当時からIDEOは「名詞ではなく、動詞で考える」デザインを主張していた。モノそれ自体をデザインするのではなく、行動をデザインするという考え方だ。

「名詞ではなく、動詞で考える」とは、例えば、「冷蔵庫」ではなく「貯蔵する」で考えるということであると理解しています。モノそのものをどうするかではなく、そもそもの目的に立ち返って広い視座で問題そのものを考える。例えば、電気の通っていない(あるいは落ちがち)な地域に、ただ超低コストの冷蔵庫を持っていったところで成功するでしょうか。そこには冷蔵庫に代替する何かしらの貯蔵するもの(場合によってはコト、方法かも)が必要になるはずです。

書き終わって気付いたのですが、なんか書籍の紹介エントリみたいになってしまった。。制約が目の前にあった時、「前提を取っ払って考える」ということの本質を見失わない思考が必要だなー、ということでのエントリーでした。

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