2011年8月31日水曜日

スタートラインに辿り着く -ペン・シャープナーを持つ-

来週に控えている会議に向けて企画書を書き始めるとき、明日までに何かアイデアを出さなくてはいけないとき、勉強するテキストに向かうとき、何か気持ちが乗らず最初の一歩がなかなか踏み出せないときがあります。マインドセットができていないのか、集中できない場所で作業を始めようとしているからなのか、体調が悪いのか、何かしら一歩を踏み出すための準備が不足しているのでしょう。自分のことを振り返ってみると、やる・やろうと思っていたのにまだスタートを切れていないことも多くて、これまで、やろうとしたことやアイデアを出せば前に進められたことを、どれだけ棒に振ってきているでしょう。

確かに、作業の途中で、行き詰ることも、息切れすることもあるのですが、始めれば大抵走り切ることができるものです。当然、その良し悪しはあるのですが、物理と同じで、良し悪し(質の高低)は、出だしの初速や、スタート地点の高さで決まってきたりします。要は、スタートを切れるか、そしてそのスタートの質を高められるかが、その後の成否を左右する部分は大きいと思うのです。

と、そんなことを考えていたら、「最後までやり遂げる」というメルマガ記事が回ってきました(逆説的なタイトルですが)。その中に下記のような面白い記述がありましたので、ご紹介します。

サハラマラソンは、サハラ砂漠を7日間かけて合計250km走るという「地球上で最も過酷なレース」と言われている競技です。
(中略)競技者は、7日分の食料や飲み物、寝袋、炊事道具、衣服など合計約20kgの荷物を背負いながら、昼間は50度近くの気温になるサハラ砂漠を走り続けるのです。

1986年に第1回が開催され、第26回目の2011年は42ヶ国から868名の参加があったそうです。
競技中に命を落とす人も出るほどの過酷さで、毎年、全競技者の1割以上が途中でリタイヤしてしまいます。
しかし、驚くべきことに、スタート前にキャンセルする人の数は、レース中にリタイヤする人の数の10倍もいるそうです。

大雑把に計算すると、
申し込んだ人のうち、実際にスタートする人は約5割。
スタートした人のうち、完走する人は約9割。

この数字だけを見ると、「スタートからゴールにたどり着く」ことよりも、「まずスタートラインまでたどり着く」ことのほうがはるかに難しいことが分かります。
この超過酷な鉄人レースを日常生活と重ねるのはどうかというところはありますが、このスタートラインに辿り着けなかった人たちの理由に興味が湧いてきます。これだけのレースにエントリーするのですから、ある程度の能力や知識、経験は持ち合わせている人たちのはず。そう考えると、物理的に準備に時間を割けなかったからコンディションが整わなかったということもあるかもしれませんが、自信を持って万全であると臨めるほど準備をできていないかもしれない、といったようなマインドセットの部分でスタートラインに辿り着けなかったケースが多いのではないかと推測します。(基本的な力が高水準な人たちが)万全という基準がない中で準備を万全にするということは、結局マインドの面が大きいようにも思うのです。

よく聞く話ですが、同じように、作家の世界でもなかなか筆が進まない、というより筆を持つ気になれない、ということはよくあるようです。そんな時、自分に筆を持たせ原稿用紙に向かわせるものを「ペン・シャープナー」と言うのだそうです。以下は、『調べる技術・書く技術』(野村進)からの抜粋。
もうひとつ集中の儀式に役立つ材料に、「ペン・シャープナー」というものがある。英語で記すと、pen-sharpener、つまりペン先を鋭くさせるものという意味である。
いったい何のことかと思われるだろうが、ペン・シャープナーとは、文章のカンを鈍らせないために読む本や、原稿を書く前に読むお気に入りの文章だ。
(中略)執筆の前には、この(ペン・シャープナー)手帳を好きなところから広げて読みはじめる。すると、気持ちが徐々に書こうという方向に高まっていく。その瞬間を逃さずに書き始めるのがコツだ。

また、作家の宇野千代は、このように言っているといいます。(『私の文章修行』より)
毎日書くのだ。(中略)書けるときに書き、書けないときに休むというのではない。書けない、と思うときにも、机の前に座るのだ。すると、ついさっきまで、今日は一字も書けない、と思った筈なのに、ほんの少し、行く手が見えるような気がするから不思議である。書くことが大切なのではない。机の前に座ることが大切なのである。机の前に座って、ペンを握り、さあ書く、と言う姿勢をとることが大切なのである。自分をだますことだ。自分は書ける、と思うことだ。

正直ここまでストイックにはなれないのですが(笑)、そして個人的にはそこまで精神論は好きではないのですが、スタートラインに辿り着くための自分なりの術(ペン・シャープナー)は持っておいたほうがいいのだろうな、と思います。確かに、何かふとスイッチが入る瞬間というものは、それぞれにあるはずです。

また、これは日常の仕事ややるべきことだけに留まらず、もっと大きな自分の中で温めていることのスタートをいつ切るのか、というところにも繋がってくるのかもしれません。100%万全な準備、というものはない。スタートラインに辿り着かずに終わる、ということだけはないようにしたいものです。

2011年8月29日月曜日

生活者の側から捉えなおすこと -『Twitterアクティブサポート入門 「愛される会社」時代のソーシャルメディアマーケティング』を読んで-

先日のエントリーでも簡単にご紹介した@smashmediaさんの新刊、『Twitterアクティブサポート入門 「愛される会社」時代のソーシャルメディアマーケティング』を読了しました。

以前のエントリー>マーケティングの第一歩 -『Twitterアクティブサポート入門』をご献本いただきました-

「アクティブサポート」とは何か、なぜ重要なのか、どのように進めるべきものなのか、といった点が、いわゆるガッツリハウツー本とぼんやり概念本のちょうど中庸をいくようなちょうど良いバランスで書き進められています。
概念から具体的なツールまで順を追って説明されているので、新しいテクノロジーやコミュニケーションの手段が出てきたことで生活者にこれまでと異なったアプローチが必要だとぼんやり考えられている方、具体的に導入をどのように進めればよいか方法論を検討されている方、実際に組織で始めているけどあまりうまくいっていない方、どの層にも読みどころある内容ではないでしょうか。(がっつり300ページ強!)
「アクティブサポート」の概要はここで>アクティブサポートについて

私は上記の中で言うと一つ目のぼんやりと考えている層(且つ生活者を相手にしたビジネスではない)ではあったので、考え方の部分で示唆を得ることが多かったように思います。パッシブからアクティブへ、という点からもわかるように、本書では、生活者の側から企業のコミュニケーションを考え直すことの重要性を説いているように感じました。その幾つかをご紹介します。


・「サイレントマジョリティ」という誤り
何か商品に不満や疑問を持ってもわざわざコールセンターに電話をしてくる生活者は少ないことが示すように、大多数の人は腹に一物抱えていても企業に何も言ってきません。これをマーケティング界隈ではサイレントマジョリティと言います。実際私もよく使っていました。

筆者は、「インビジブルマジョリティ」というのが正確であると言います。
これまでも消費者は黙っていた(サイレント)わけではないのです。彼らはずっと不安や不満を話していたんです。ただそれが企業に届いてなかっただけで、見えなかっただけ(インビジブル)にすぎません。じっさいあなたも周囲の家族や友人には不満を話していますよね。みんなそうです。
生活者はだまっていたわけではなく企業が聞いていなかっただけというのは、確かにそうだなと。この企業の論理を生活者の視点で捉えなおさなくてはいけない。そしてソーシャルメディアというアクティブに生活者にリーチできる手段が出てきた今が、その絶好の機会であるというわけです。


・「囲い込む」というのは前時代的
EC業界では「新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかる」と言われているそうで、これは顧客を維持する(離反顧客を減らす)ことの重要性を意味しています。この時企業は顧客を「囲い込む」と言ってしまいがちですが、これがまた企業の論理。生活者からすると、良い商品・サービス、エクスペリエンス、サポートを提供してくれるなら「付き合い続けてあげてもいい」というスタンスなのです。実際に、過去に比べて生活者側に選択肢は多くなり、選択肢を乗り換えることのコストも一般的には低くなっているように思います。

この「付き合い続けてあげてもいい」という気持ちを引き出すための一つの手段がサポートであるということです。その一つの例がクレーム対応です。「クレームは最大のチャンス」と言いながらもこれまでは企業はそのクレームを待つしかなかった。これがソーシャルメディアによって可視化されるため、わざわざ問い合わせることなく去っていたはずの顧客と対話することができるというわけです。

ここで、面白い研究が紹介されていたのでご紹介。顧客満足度に関する研究の権威、ジョン・グッドマン氏の名を冠した「ジョン・グッドマン理論」が下記です。
  • 不満を持った顧客のうちクレームを申し立て、その解決に満足した顧客の当該商品の再購入決定率は、不満を持ちながらクレームを申し立てない顧客のそれに比較してきわめて高い。
  • 不満を持っていてもクレームを申し立てない顧客の90%は二度とその商品を購入しない。
2つ目、恐ろしいです。。クレームをアクティブに拾いに行く姿勢、重要そうです。

クレーム対応に代表されるサポートは、何か新しい価値を提供するようなものではありませんが、顧客重視のコミュニケーションで有名な靴のECカンパニー、ザッポスのCEOトニー・シェイのこの言葉がその重要性を表しています。
お客さんは「なにをしてくれたか」は覚えていないかもしれない。でも「どんな気持ちにしてくれたか」はけっして忘れない
筆者は、むしろアクティブサポートにおいて営業をしてはいけないとも書かれています。


・カスタマーサポートだけ、ネットだけ、の話ではない
カスタマーサポートが適任だがカスタマーサポートだけの話ではないし、ネットの話だがネットだけの話ではない、というのが適切でしょうか。生活者から見ると、カスタマーサポートは窓口ではあるけれどもロイヤリティや不満を感じるのは企業や商品という単位ですし、不満の解消の手段がネットであろうと電話であろうと同じように対応をしてもらわないと困るわけです。

全社的な課題認識を持って取り組むことには、企業としても意味があります。本書にはアクティブサポートを社内に導入するための、タイプ別上司攻略方法(各部門にとってのメリットが満載)がまとめられていますが、これなんかはアクティブサポートが実は色々な部署にとっても意味のある取り組みであるということが端的に表れている箇所かと思います。また、よりプラクティカルな問題として、例えばTwitterでのやり取りに「顔文字を入れるか」「語調をどうするか」というようなことは、企業としてのブランドにも大きく関わってくる話です。企業としてのポリシーが重要ということだと思います。

また、ネットの話だがネットだけの話ではない、というのは下記の記述に端的に表れているのではないかと思います。実際にアクティブサポートが実践できている企業はTwitterをそれ以外のサポート窓口と並列で考えているということです。
企業にとってソーシャルメディアはマーケティングや広報が主導する窓口の認識であっても、お客さん側に立って考えればひとつの企業なのですから、窓口ごとに対応が変わることは論外ですし、別の窓口に問い合わせた際にまた同じ情報を聞くのはとても失礼なことです。

さらに、副次的な効果も企業は期待できます。巻末にはこの分野で先駆的に取り組みをされているソフトバンクモバイルの担当者のインタビューが掲載されているのですが、その中に、アクティブサポートによる社内の変化として、カスタマーサポートからの報告やお願いに対する、他部門の受け止め方と改善のスピードが良くなったというエピソードが語られています。生活者の側からものごとを捉えなおしたことで、良い変化を生む事例ですね。


非常にランダムではありましたが、気になったところをピックアップしました。マーケティングに関わる方には、他にも立場によって色々な示唆の得られる書籍であると思います。
一つ気になったのは、効果測定の部分。企業の取り組みとしてやる以上、説明責任が問われてくるわけですが、本書でも色々と効果指標が紹介されているものの、これといった決定打はまだない印象で、著者も曖昧にしておられる感じを覚えました。ある程度このような取り組みが進んだ暁には、その成功事例・失敗事例から帰納法的に適切な指標が見出せる日は来るのでしょうか。


最後に以前のエントリーで、個人的に気になるポイントとして挙げていた下記の3点。
・ゼロベースで消費者にアイデアを出してもらう、ということはどうなのか
・「Twitterアクティブ~」の”~”に当てはまる他の言葉はないか
・B2Bのビジネスへの応用はどうなのか

@smashmediaさんから下記のようなコメントをいただきましたので、ご紹介をして終えたいと思います。使える/使えないではなく程度の問題だと。手段を(Twitterだけというように)限定すると難しくはありますが、パッシブをアクティブに転換するという観点からは、色々考えていけることがありそうです。
ツイッターに限らず、できる・できないという可否の問題というのはあまりなくて、あるのは向き・不向きだけだとぼくは思ってます。
なので商品開発でもB2Bでもできなくはないと思う反面、向いてはいないだろうとも思うんですね。

2011年8月28日日曜日

分析と直感のハイブリッド -東京大学i.schoolシンポジウム『ビジネスデザイナーの時代-デザイン思考をどう実践するか』に参加して- 

昨日、東京大学i.schoolのシンポジウム、『ビジネスデザイナーの時代-デザイン思考をどう実践するか』に行ってきました。

東京大学i.schoolとは、HPから引用すると、「東京大学知の構造化センターの実施する教育プログラムであり、知の構造化技術をイノベーション教育に活かすことを目指しています」ということで、今回のようなヒトやイノベーションにまつわるシンポジウムやワークショップを開催している比較的新しい取り組みのようです。
本シンポジウムの趣旨は、「デザイン思考(Design Thinking)」という言葉が近頃ビジネスの世界でも聞かれる中で、「デザイン思考」とはどのようなものなのか、「ビジネスデザイナー」とはどのような人を言うのか、どのように育成できるのか、といったことを考えるというものでした。

東京大学i.schoolとは
シンポジウムの概要はこちら>>『ビジネスデザイナーの時代-デザイン思考をどう実践するか』

■前半:Roger Martin教授による講演>「デザイン思考」について
シンポジウムは、トロント大学 ビジネススクール=ロットマン経営大学院の学長で、デザイン思考のオピニオンリーダーである、Roger Martin教授の講演から始まりました。デザイン思考とは何かということを、多くの例を用いて丁寧に解説をしてくれました。その講演はこのような質問から始まります。
自分の組織のイノベーションに満足している人はいますか?
過去の色々な講演での、この質問に対して手を挙げた人の割合は、毎回約5%程度だということです。では、なぜ組織はお金や時間、人をイノベーションにかけているのに、なぜこのような結果になるのでしょうか、ということがMartin教授の問いです。

Martin教授の答えは、組織の考え方が、「分析的思考(Analytical Thinking)」によって、「信頼性(Reliability)」を最大限高めようとする方向に偏りすぎているからである、というものだと理解しました。これだけではよくわからないので、自分なりの理解を書いてみたいと思います。

・分析的思考と直感的思考
思考には大きく2分類あり、それが「分析的思考(Analytical Thinking)」と「直感的思考(Intuitive Thinking)」です。それぞれは対立的に逆方向への目的を持っており、それぞれを突き詰めると、「信頼性(Reliability)」と「有効性(Validity)」が100%にまで高まると言います。

分析的思考は、定量化できるものに向いており、そのため再現性が非常に高い思考法です。さらに分析というものは過去を対象にしていますので、ものごとの信頼性を非常に高めるものであると言えます。
一方で、我々がビジネスを行う上で知りたいことは過去のことでしょうか。過去を知るということは、あくまでも良い将来を作り上げるための一つの手段であり、本当はものごとの有効性を高める何かが欲しいということであると思います。有効性という言葉が正直個人的にはわかりにくかったのですが、言い換えるなら、「成果のインパクト」とか「実効性」といったところでしょうか。

いずれにしても、マーケットリサーチ等を通じて分析をひたすら続けても、信頼性は高まりこそすれ、有効性(成果のインパクト)は必ずしも高まらないということになります。

・ハイブリッドとしてのデザイン思考
この分析的思考と直感的思考をブリッジするもの(重ねたもの)が、「デザイン思考(Design Thinking)」であるとMartin教授は言います。そしてイノベーションというものは、分析的思考と直感的思考、それぞれを単独で最大限に高めたところで生まれるものではなく(それれは、ただの分析と妄想)、この2つが交わるデザイン思考において、その成果が最大化されるということです。

信頼性を分析で最大限に追求したところで、クリエイティビティやアイデアのインパクトという面で行き詰まり、有効性を直感で最大限に追求したところで、それは誰にも理解できない妄想となり組織において受け入れられないということでしょうか。

・イノベーションに実証を求めてはいけない
Martin教授によると、今の組織をリードする層には、この信頼性を高める分析的思考に寄った人間が多いと言います。これは個人的な感覚値にも合います。このように分析に慣れている人が言ってしまいがちなことが、「実証(Prove)してみろ」ということです。これは過去を分析する中では適切な要求なのかもしれませんが、まだ起こっていないイノベーションを考える際には不適切な要求となります。

この問いがイノベーションを妨げる大きな障壁となっていると言います。(一方で、いくら起こってはいないことでも、論理的に説明する責任はあるという言及もありました)

・分析的思考への偏りがもたらす弊害
現実問題として、分析的思考だけではイノベーションを起こすことはできない、という例として、サブウェイがマクドナルドを抜いて店舗数世界一になった(売上はマクドナルドがまだ上)、というケースが紹介されました。
サンドイッチのサブウェイ、世界店舗数でマクドナルド抜く

店舗数で全てが測れるということではありませんが、一つの側面として、もし分析的思考がイノベーションを導くことができるのであれば、既存のビジネスの中で膨大なデータを抱えているマクドナルドの方がより消費者の心と財布を掴み、より出店を加速させる次の一手を導き出すことができたはずということです。

Martin教授は、「謎(Mystery)」⇒「経験則(Heuristic)」⇒「方程式(Algorithm)」というビジネスにおける段階を示されていました。この流れで言うと、分析的な思考にはまってしまった企業は、一度作られたこの方程式に拘泥され、そのルールの中での分析に終始してしまうということになります。デザイン思考をするということは、過去にとらわれることなく、新しい謎に挑み、新しい方程式(ルール)を導き出すということです。これがあるからイノベーションを起こせるというわけです。

以上が、「イノベーションがなぜ起こりにくいのか」という問いに対しては、「組織の考え方が、分析的思考によって、信頼性を最大限高めようとする方向に偏りすぎているからである」という答えになる、自分なりの理解です。


■後半:パネルディスカッション>「ビジネスデザイナー」とは
後半は、Roger Martin教授に加えて、デザインコンサルティングカンパニーZibaの濱口氏と、i.schoolのディレクターお二人が参加され、「ビジネスデザイナー」の定義について、パネルディスカッションが行われました。
本旨とは関係ないですが、このZiba(初めて知ったのですが、かの有名なIDEOのコンペティターとのことです)の濱口氏が面白い。デザインコンサルティング系の人って魅力的な人が多いと感じます。
IDEO
Ziba

で、「ビジネスデザイナー」というのは新しい概念であるというお話でした。
企業の人に「おたくはビジネスデザインはやっていますか?」と聞けば、大方「ええ、やってます」と返ってくるはず。ただ「では、ビジネスデザイナーとはどのような人ですか?おたくではどこの部署の誰ですか?」と聞くと、「わかりません」と返ってくることが多いのではないかということ。それだけ新しい概念であり、まだ定まっていない考え方ということです。

濱口氏が言っていたのが、「デザインとはSiftを生み出すこと」ということ。そういう意味では組織の中にあらゆるデザインがありうるわけです。特に産業社会から情報社会になり(ちょっと古いですが)、組織の中でこのSiftを生み出せる幅が広がり、従来はプロダクトデザイナーくらいだったデザイナーという言葉の利用領域が、テクノロジー、ブランド、カスタマーエクスペリエンス、とどんどん広がってきているということです。

これは何を意味するかというと、組織の中にSiftが同時多発的に起こるようになり、その点と点をつなぎIntegrationする役割が必要になるということです。これが「ビジネスデザイナー」の役割であるということが語られていました。

正直バクとしている印象ではあります。ここは今まさに走りながら、その領域を開拓し手本を示す人、その人のあり方自体が定義になっていくということなんだと思います。

同じく濱口氏は下記のような趣旨のことをおっしゃってセッションを締められていました。非常に印象に残っています。(筆者意訳)
先ほどの「謎(Mystery)」⇒「経験則(Heuristic)」⇒「方程式(Algorithm)」という文脈で言うと、ビジネスデザイナーは「謎」の段階は終え、今は「経験則」の段階にいる。みんな「方程式」の段階になってからやっと入ってくる。それでは遅い、今が面白い時です。


ちょっと長くなってしまったので、この辺でやめておきます。。
非常に自分の感覚値にあう話でした。色々とヒントをいただいたので、自分の実践の中で「デザイン思考」や「ビジネスデザイナー」について取り入れてみて、咀嚼してみたいと思います。

2011年8月26日金曜日

「当たり前」を疑う -慣習というイノベーションの壁-

ビジネスの現場には色々な「当たり前」があります。

重要な書類は紙でやり取りするべき、契約書には「ハンコ」が押されているべき、営業したいなら訪問してくるか電話してくるべき、顧客の声は自分自身で現場に行って拾うべき、広報・採用・コンサル・広告といった専門的なことは専門の事業者に依頼すべき、などなど。これらは少し前の「当たり前」ですが、ほんの一部であり、数え上げればキリがありません。

ご存知のように、上に列挙した「当たり前」は今や崩れ始めています。そしてこの「当たり前」を切り崩すイノベーションが、一つのビジネスに成長していきます。上の例に対しては、電子の受発注、電子ハンコ、Skypeやメールでの商談、ソーシャルメディアでの傾聴、プロ職の内製化とそれを支援するビジネスツール、といったものが該当します。


 ・「当たり前」を切り崩すイノベーション
ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』で、イノベーションの機会として下記の7つを挙げています。(順番は確実性の大きい順だそうです)
  1. 予期せぬ成功や失敗
  2. ギャップの存在
  3. ニーズの存在
  4. 産業構造の変化
  5. 人口構造の変化
  6. 認識の変化
  7. 新しい知識の出現

「当たり前」を切り崩すイノベーションは、「2.ギャップの存在」に該当するのではないかと思います。「当たり前」の裏には、環境や時流の変化によって、フツフツと求めることのズレやこれまでのやり方への違和感が生まれてくるものです。
下記のドラッカーの記述がそれをうまく表現しています。
ギャップは、予期せぬ事象と同じように、一つの産業、市場、プロセスの内部に存在する。したがって、その産業や市場、プロセスの内部、あるいは周辺にいる者ははっきり認識することができる。まさにそれらは目の前にある。
しかし同時に、ギャップはそれを当然のこととして受け止めてしまいがちな内部の者が見逃しやすいものでもある。彼らはずっとそうだったという。しかし多くの場合、その「ずっと」が、実はごく最近のことにすぎない。

今は「当たり前」のことでも、かつては新しい試みだったはずです。上記のギャップに当てはめて考えると、当初はギャップがあったところもいずれ誰かが埋め、それに慣れる、そしてまた新たなギャップが生まれる、という繰り返し。

イノベーションを生み出すものが問うべきこと。それは、業界の慣習となっていることは本当に必要なことなのか、それは本当に求められているのか(実は惰性なだけではないか)、実はなくても困らないのではないか、慣習的なもので隠れてしまっているが実は他に真の価値があるのではないか、といったようなことなのかもしれません。


・慣習というイノベーションの壁
ここまでは、「当たり前」を疑い、それを切り崩すイノベーションが新しいビジネスを生み出すという話。「まあ、そうだよな」と感じられた方も多いと思います。ただ、そんな簡単にものごとが進むわけではありません。上記の「当たり前」と書いた事柄、「実は、うちまだそんな感じかも。。」という方も多いのではないでしょうか。

「当たり前」が崩れる現実を目の当たりにしても、まだこれまでの慣習を頑なに信じている、あるいは人に求める人たちがいる、ということも事実です。「俺はこうしていた」的な慣習です。私はこの慣習というものが、ビジネス、特に実務にイノベーションを起こす、一番のボトルネックになっているのではないかと思っています。

この現場レベル・実務レベルのイノベーションを生み出すのは、ビジネスモデルの転換といったビッグイノベーションよりも、意外とやっかいなものなのかも知れません。ビッグイノベーションは確かにパワーもコストも時間もかかるかも知れませんが、一つパタッと積み木が倒れると将棋倒し的に転換が進む傾向があります。なぜなら、それに抗う企業は消えてなくなるだけだからです。(極端に言ってます)

一方で現場レベル・実務レベルのイノベーションは、どこか端っこの方でパタッと積み木が倒れても端々にまでなかなか浸透していきません。企業や事業と違って、人には、合理性だけではなかなか連鎖の流れが生まれません。連鎖を邪魔するのが個人レベルまで染み込んでいる慣習であり、価値観であり、癖であり、怠惰です。そして、その慣習を築き上げた張本人こそが、組織の中ではパワーを持っており、合理が通用しない一つの要因になっているのです。


・その壁を越える鍵は何か
うまく定着していっている現場レベル・実務レベルのイノベーションは、この慣習というボトルネックをうまく解消しているのか、避けているのか、踏み倒しているのか。今関心があることの一つです。人って、始まりの頃の抵抗感と、今となっては当たり前だよねという感覚はあるのですが、「そう言えば知らぬ間に・・・」ということが多く、その知らぬ間のプロセスをとかく忘れがちです。ここにヒントがあるような気がしています。

答えはまだありません。もう少し悩んでみようかと思います。

2011年8月23日火曜日

企画パーソンが心がけたい3つのこと -ノンフィクションの技術から学ぶ-

先日のエントリーで少し内容をご紹介した『調べる技術・書く技術』(野村進著)ですが、他にもノンフィクション作家の調べて書く技術と、ビジネス(特に企画)の技術で共通する点があったので、メモ。

以前のエントリー>>インタビューとは「観察する」こと -『調べる技術・書く技術』を読んで-

応用したいのは、「企画」という分野。自身も日々、ウンウンうなっているわけですが、これが意外と共通点が多いのです。両者ともに、テーマやトピックを決め、ファクトや生の声を集めて、意味合いを見出し、形にする、という仕事(乱暴ですか?)。共通点が多いのも頷けます。
さて今回は、本書を読んで再認識させられた、企画に携わる者として心がけたいことを3つに整理しました。

1. 足で稼ぐこと
まずは本書より引用します。ベトナム戦争にのめり込んでいくホワイトハウスの指導者たちの姿を、まるでその場に立ち会っていたかのように描いた、『ベスト&ブライテスト』の著者ハルバースタムの言葉。
私の取材のやり方は、インタビューを繰り返し、その人から聞き出すことが何もなくなるまで続けるという方法です。とにかく取材することですよ
(中略)
レッグワークをすること、そして人に会いつづけること。このようにしてケネディについて三ヶ月くらい集中的に調べていくと、ケネディを実際に知っているある人物をインタビューしているさなかに、『この人よりも自分のほうがケネディのことを知っている』とひらめく瞬間があるのです。突然『わかった!』と思うマジック・モーメントがね。そこで次のハードルに移るわけです。

企画においても、アイデアを考える時、草案を検証する時、誰かを説得する時、基本となるのはファクトや消費者や関係者の生の声を集めるというところにあると思います。ある日突然ビッグアイデアが降って湧いてくる人や、自分がトップだから想いだけでやれてしまうんだという人も中にはいるかもしれませんが、そのようなことは例外です。
まずは「足で稼ぐこと」、その積み重ねが、アイデアのひらめきや企画のレベルアップ(≒マジック・モーメント)を生み出します。

2. 捨てること
ここもまずは引用から。これは著者の言葉。
取材で集積した事実のうち、実際に使うのはせいぜい十分の一程度、できれば二十分の一以下が望ましい。そうしないと、作品の輪郭がぼやけてしまう。言い換えれば、いかに取材データを惜しげもなく捨てられるか。その思い切りのよしあしで、作品の出来不出来が決まると言ってもいい。
どこを生かし、どこを捨てるかの選択は、やはり書きつづけることで身につけるしかない。概して、捨てる量が多ければ多いほど、作品の質は向上するものだ。これを「削除のための勇気」と言った評論家もいる。

これを企画の文脈で言うと、リストアップしたアイデアや詳細に詰めてきた企画を、脈がないと合理的に判断できる場合は思い切って「捨てること」を意味します。企画書に思考のプロセスまで含めて文字をいっぱい詰め込むことを止める、これも当てはまりますね。

実はこの部分は個人的に一番不得手なところだったりします。人は自身が足で稼いだことや着想したことに、折角考えたのに勿体無いとか、まだ何かあるはずとか、とかく執着しがちです。ビジネスでもサンクコスト(埋没コスト)なんて言いますが、過去にかけたコスト(時間や知恵)は既に消費したものである以上、これが何も生み出さない場合、勿体無いというのは論理的ではないわけです。むしろそれに拘り更に無駄な時間やコストを費やす方が勿体無い。

足で稼いでアイデアを出すまでは、リストを増やしていく作業。一方で、そこから企画に落とし込んでいく作業を、「リストを絞り込んでいく作業」と捉えるか、「リストを捨てていく作業」と捉えるか、ここがこのステップをうまく乗り越えられるかの大きな分岐点になりそうです。

ここで、スティーブ・ジョブス氏の言葉を引用しておきます。しびれます。
“集中する”というのは、集中すべきものに『イエス』と言うことだと誰もが思っている。だが本当はまったく違う。それは、それ以外のたくさんの優れたアイデアに『ノー』と言うことだ。選択は慎重にしなければならない。私は、自分がやってきたことと同じぐらい、やらなかったことに誇りを持っている。イノベーションというのは、1000の可能性に『ノー』ということだ。

3. 考え抜くこと
アイデアや企画の焦点が絞れたら、あとはそれを磨く作業です。もうここはひとえに「考え抜くこと」です。
毎日新聞の名物記者だった内藤国夫氏も下記のように言っているそうです。
自分が書きやすいものは、読者には読みづらい。ラクして書いたものには、読むのに苦労する。反対に苦労して書くと、読む方は、読みやすい。

企画の中で本当に伝えたいメッセージは何なのか、アイデアの中で一番コアな部分はどこなのか、シンプルに「重要なことは、この3つです!」と言い切れるくらい、練りこむ必要があるのだと思います。

これまたGoogle先生に教えてもらった、しびれる言葉をご紹介。作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(知らないけど。。)の言葉だそうです。
デザイナーが自分の作品を完璧だと思うのは、付け加えるものが何もなくなったときではない。取り去るものが何もなくなったときだ。


以上、当たり前なことが多いですが、企画に携わる者として心がけたいことを整理してみました。
皆さんも、「すごく時間かけて企画練ったのに、なんか中身ないな。。」「どっかで見たことある感じだな。。」「なんでこの企画の良さが伝わらないんだ。。」といったような経験あるかもしれませんが、この3つを見直してみると「あっ」となることもあるかもしれませんね。

勢いあまって、自分自身へのハードルを上げてしまいました。精進していきたいと思います。

2011年8月21日日曜日

マーケティングの第一歩 -『Twitterアクティブサポート入門』をご献本いただきました-

本日、近日発売になる『Twitterアクティブサポート入門 「愛される会社」時代のソーシャルメディアマーケティング』の著者でおられる、@smashmediaさんとランチをさせていただきました。

新著をご献本いただくかわりに、ランチをご馳走する(てほどでもない普通のご飯。。)っていう、なんか新しい献本のスタイル。@smashmediaさん、ありがとうございました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。
ちなみに、関係ないですが、本書は装丁が超ビビッドなショッキングピンクで、電車で読むには目立ち過ぎること請け合いです(笑)

実は、まだ書籍自体は読めてないのですが、「はじめに」には目を通しました(そこだけ?とか言うのはなしです)。そこに記載されている下記の内容で、本書の内容はイメージいただけるのではないでしょうか。。
マーケティングの第一歩は「消費者を正しく理解すること」からはじまります。アクティブサポートを行い、消費者と直接対話して、本音を伺うことで、これまでよりも正しく理解できるはずです。

さて、本書はこれからじっくりと読みたいのですが、色々と興味深いお話を聞かせていただいたので、忘れないうちにメモっておこうと思います。
お話を伺っていて感じたことは、本書の論点は、『Twitterアクティブサポート入門』というタイトルに集約されているということです。そこで、私の勝手な解釈で「Twitter」「アクティブ」「サポート」の3つで整理したいと思います。(正しい理解であることを祈りますが責任は持てません。。)

■Twitter
まずは言わずと知れた「Twitter」。なぜ今このツールなのか。
著者は「消費者を正しく理解すること」と書かれていますが、どの企業もいまや消費者の声を拾うことの重要性は知っています。ただし、これまでの声を拾う手法にはその範囲や内容に一定の限界がありました。いわゆる、「サイレントマジョリティ(大多数の人は腹に一物抱えていても何も言わない)」の問題です。
例えば、グループインタビューでは、声の大きい人に同調する圧力がかかったり、企業の期待する回答をなんとなく気にしながら答えたりということがありえますし、コストもなかなかのもの。何かに不満を感じた時に、コールセンターに勇気を出して電話をかける人がどれだけいるか、不満は感じているのに最悪何も言わずに離反する消費者もいるはずです。また、オンラインリサーチでは量的な側面は多くの人から声を拾えますが、質的な側面には限界があります。
(誤解なきよう、それぞれある面では有効な手段ではあることは断わっておきます)

これを補うのが「Twitter」、というわけです。Twitterなら低コストで幅広い層から声を拾えますし、声を発する方も気軽に製品やサービスについて本音をポツリとつぶやくことができます。企業からしても、発言内容を参考にして、目的に応じて適切な人に聞けるというわけです。
では、ただつぶやきを眺めていれば声を拾ったことになるのか、と言えば違います。それが次の「アクティブ」です。

■アクティブ
ただつぶやきを眺めているような受け身(=パッシブ)の場合、例えば、「XXX使ってみたけど良かったです!」とあっても、何が良かったのか、どのように使ってくれたからなのか、といったすなわち5W1Hがわからないわけです。また、日本語の特性からして、「ヤバい」といったようなコメントに対して、コンテクスト(文脈)がないとポジティブなのかネガティブなのかわからない。
そこで、こちらから問いかけて傾聴すること、著者の言う「アクティブ」、の重要性が出てきます。何が良かったのか/悪かったのか、なぜそのように思ったのか、どのようにして欲しいのか、といった意見を企業側から積極的に問いかけるわけです。
では、一体このような作業を誰がやるのが適任なのでしょうか(つまり、このような作業は一体何という作業なのでしょうか)。それが次の「サポート」です。

■サポート
上記したように、傾聴がキーワード。この傾聴のプロがカスタマーサポート部門(業務)であるというのが著者の主張です。(人によるとは思いますが)マーケティングや広報のプロは、自分の言語で話してしまったり、仮説をベースにきいてしまったり、そもそもの業務に傾聴とは別の目的があるわけです。
また、消費者は、目の前にある製品やサービスに対してダメ出しすることや批評が大の得意。これを受け止め慣れているのもサポートだということです。ということは、この手法は既存顧客のリテンションや(リアルタイムにまで高頻度で高速な)製品・サービスの改善に使えそうですね。
ただこれはサポートが前面に出るという話であって、本質的な課題解決や対応を行うためのマーケティングへのつなぎ方や組織体制の設計は重要だと、著者も仰っておられました。


以上が、本日お話を伺っての、私の現時点での理解です(なにせ、まだ読めていませんので、理解が不十分なところもあるかも。。)。他にも実務的な方法論や事例が色々と紹介されているようですよ。
・・・と書いていたんですが、著者が書かれた「アクティブサポートについて」というエントリーを見つけてしまった。こちらの方がわかりやすいと思います。。

ちなみに、『グランズウェル』に、著名ブロガーであるジェフ・ジャービスの下記のコメントがあったのを思い出しました。
「買うときは慎重に」 これは、ちょっと違う。現代の合い言葉は「売るときは慎重に」だ。今の消費者は黙っちゃいない。企業にだまされたら反撃し、情報を開示し、連帯する。
これは、さらに「ちょっと違う」のかも。正確には「売ってからこそ慎重に」かも知れないですね。


さて、読み進めるに当たっては、下記のような目的意識を持っていこうと考えています。

・ゼロベースで消費者にアイデアを出してもらう、ということはどうなのか
これは、消費者の得意分野から考えるとなかなか難しいということと、そこは一定程度企業側からプロダクトアウトすることが重要なのではということが、著者の主張。ただ何かうまい消費者の巻き込み方あるのではないのかな、と思ったりもして。

・「Twitterアクティブ~」の”~”に当てはまる他の言葉はないか
上記で「マーケティングや広報は・・・」と書きましたが、サポートをこれらの言葉に置き換えれば、それはそれで成り立つのではないかというのが私の考え。マーケティング=傾聴という論もあるように、どのようにこの考えを広義のマーケティングに取り入れていけるのか、自身の中でもよく考えてみたいとは思います。

・B2Bのビジネスへの応用はどうなのか
B2Bでは、サポートの専門性はB2Cより格段に増しますし、当然コストもかかります。また、(消費者よりはという意味で)マスが対象ではなくなるので、ある程度既存でもきめ細かな対応はしているはずで、既存のやり方に加えた効果が見出せるのか、ということも問題になってきそうです。そもそも、ツールとしてTwitter使えないかも。。その辺も鑑み、思案してみたいです。


(おまけ)
著者の@smashmediaさんからは、他にも色々と刺激をいただきました。歴史の話(営業妨害かも知れませんが、恐らくこっちの方が目が輝いておられた)、個人で東京から離れて自分のペースで仕事をされている話、昨今のソーシャルメディアについての話、などなど。また機会があればご一緒させていただきたいと思う魅力的な方でした。

2011年8月20日土曜日

手段に振り回されない -『グランズウェル』よりメモ-

トレンドをウォッチしておくことは非常に重要だけれども、それに振り回されないことも同じくらい重要であるという話。今で言うと、例えば、ソーシャル的なもの。
これまでの傾向からも、トレンドは「手段」についてのものであることが多いと思います。例えばITにおいても、メインフレーム、ERP、仮想化、ASP、SaaS、クラウド、KM、BI、DWHなどなど、数えればキリがありません。(順不同)
(当たり前すぎるかも知れませんが)手段に拘泥しないためにも、「目的」を明確に持つことが重要になります。

というようなことを考えていたら、読んでいた書籍に同じようなことが書かれていました。それこそソーシャルやるなら必読みたいな書かれ方することが多い『グランズウェル』。(概要は色んなところで紹介されているので割愛)
曰く、
~まず、テクノロジーを考える。しかしテクノロジーの変化は激しい。最新のテクノロジーを追いかけるのは、勢いよく回っているメリーゴーランドに飛び乗るようなものだ。結局は目が回って、~
しかし治療法はある。一歩退いて、「顧客は、どんなテクノロジーを使う傾向があるのか?」と自問するのだ。次に「自分の目的は何か?」を考える。
だそうだ。
まあ、当たり前なんですが、改めて。

ところで、この「グランズウェル」という考え方。幾つか手段として有用そうなフレームワークがあったので、メモしておきます。
ちなみに「グランズウェル」の定義は、
グランズウェルとは社会動向であり、人々がテクノロジーを使って、自分が必要としているものを企業などの伝統的組織ではなく、お互いから調達するようになっていることを指す
とあります。わかりにくいですね。。簡単に言うと、「個人が強くなって組織の言い値で動かなくなり、しかも横でつながり始めてしまった」という感じでしょうか。

■POST
グランズウェル戦略を考える際の、段階的なプロセスを示す「POST」とは、下記のようなものです。
  1. P:people(人間):顧客は、どんなテクノロジーを使う傾向があるのか?
  2. O:objectives(目的):ゴールは何か?
  3. S:strategy(戦略):自社と顧客の関係をどう変えたいのか?
  4. T:technology(技術):どんなアプリケーションを構築すべきか?

手段ではなく目的から、と冒頭に書きましたが、本書ではpeople、つまり想定される顧客から始めよ、とあります。この辺はグランズウェルたる所以でしょうか。正直ここは整理学の問題であるような気もしていて、objectivesにpeopleも含めて考えてもいいのでは、と個人的には思ったりしています。

そこで、peopleとobjectivesを考える上でのフレームワークをそれぞれ引用。私なりの解釈では、このマトリックス(people×objectives)で考えればいいのかなと思っています。

■6タイプのpeople
まずは、people。グランズウェルの住人はテクノロジーに対する態度で、下記の6グループに分類できるのだそうです。上に行けば行くほどグランズウェルへの参加度が高い。自分たちの顧客はどこに属するのかを見極めます。
  1. 創造者(Creators)
  2. 批評者(Critics)
  3. 収集者(Collectors)
  4. 加入者(Joiners)
  5. 観察者(Spectators)
  6. 不参加者(Inactives)

ちなみに、人がグランズウェルに参加する理由は、下記のようなもの。この動機も合わせて、顧客の属性を特定していきたい。
友人づきあい、友人作り、友人からの圧力、先行投資、利他心、好奇心、創造的衝動、他者からの承認、同好者との交流

■5つのobjectives
もう一つは、objectives。下記の5つの目的のうち、どれを達成したいのかを定義する。
  • 耳を傾ける(傾聴戦略):顧客理解を深め、顧客インサイトをマーケティングや開発に利用する
  • 話をする(会話戦略):双方向的な形で、自社のメッセージを広める
  • 活気づける(活性化戦略):熱心な顧客を見つけ、口コミの力を最大化する
  • 支援する(支援戦略):顧客が助け合えるようにする
  • 統合する(統合戦略):顧客をビジネスプロセスに取り込む(製品の設計に顧客の声を取り込む等)

それぞれ、従来の業務機能との対応を示しておく。これまでのやり方をいかに変えていかなくてはならないかのヒントになるはず。
  • 傾聴⇔リサーチ
  • 会話⇔マーケティング
  • 活性化⇔セールス
  • 支援⇔サポート
  • 統合⇔開発


このマトリックス(people×objectives)がしっかりと考え抜ければ、あとは具体的な戦略(S)と技術(T)を考えればよいということになります。
(考えればよい、と言うほど簡単なものではないし、重要なプロセスであることは付記しておく)

個人的には、上記の5つのobjectivesをB2Bのビジネスで形にする方策を考えたいと思っています。

インタビューとは「観察する」こと -『調べる技術・書く技術』を読んで-

現在、野村進の『調べる技術・書く技術』を読んでいます。(途中)
調べる技術・書く技術 (講談社現代新書 1940)  野村 進 (著)

まだ途中なので、別に書評でもまとめでもないのですが、仕事の参考になる部分があったので少し抜粋。それは「インタビュー」にまつわる方法論。
著者は著名なノンフィクションライターらしいので(本書を読むまで著者を知らなかった。。)、取材という観点からの記述なのですが、これが結構、マーケティングの基本である(生活者等への)インタビューにも通じるのです。

以下に、気になったところを抜粋。

■基本的に取材対象に対して聞く質問
著者は、成人に対するインタビューでは基本的に下記の20項目をベースに質問を構成するそうです。(もちろん目的に応じて変えるのだと思います)

  1. 家族構成、家族とりわけ両親や兄弟姉妹との関わり
  2. 生い立ち、どんな子供だったか、生活環境
  3. 子供のころの思い出、忘れられない出来事
  4. 子供時代と青年時代の夢
  5. 影響を受けた人物や本など
  6. 青年期以降、現在に至る個人史
  7. 友人関係、ニックネーム
  8. 現在の仕事に就くまでの経緯とその後の変遷
  9. 仕事の内容と楽しさ、むずかしさ、やりがい
  10. 職場での人間関係
  11. これまでで最も辛かったこと、涙を流したこと
  12. 長所と短所
  13. 尊敬する人物、最も好きな(タイプの)人物と最も嫌いな(タイプの)人物
  14. 典型的な一日のスケジュール
  15. 趣味と娯楽
  16. 好物、嗜好品、もしいたらペットについて
  17. 金銭観
  18. 異性との付き合い、セックス観
  19. 何を信じているか
  20. あなたを突き動かしている原動力は何か
著者の場合、20のその人物を「突き動かしている原動力」を自分なりにつかめたら、インタビューは概ねうまくいったとみなしているとのこと。

■人物を見る
著者は相手の第一印象を大事にするそうで、あくまでもさりげなく相手を「すべてを見尽くそうとする」らしいです。そのポイントが下記。

  1. 顔つき、体つき
  2. 服装、ファッション・・・見落としがちなのが、相手の靴
  3. 表情・・・特に目と口の動き
  4. しぐさ、癖・・・たとえば、腕を組む、こちらの目を正視しない、手を叩いて笑う、口を手で覆いながらしゃべる、貧乏ゆすり
  5. 視覚以外の感覚で感じたこと・・・たとえば、声の調子、握手をしたときの手の温かさ・冷たさ・しめりけの有無、握力の強弱、体臭(香水のにおいを含む)

あくまでもさりげなく、あくまでもゆとりを持って、とのこと。

■情景を見る
取材相手のいる場所やその人物を取り巻く環境にも目を行き届かせることが必要だと著者は言います。文中では、その例を挙げています。

私は、総理大臣になる数ヶ月前の細川護熙にインタビューにしているのだが、事務所のデスクの脇にケネディ大統領の写真が飾ってあり、実に意外な思いにとらわれた。当時、細川には首相の目はないとされていたのだが、あのケネディの写真を目の当たりにした瞬間、清新なイメージで売り出し中だった細川の野心の臭いを嗅ぎ取った気がしたものである。

また、阪神大震災の直後に現地に入った著者の取材ノートには、下記のような語句が断片的に記されているという。

焼け跡 空襲後のよう 騒然たる雰囲気 もうもうたる粉塵 マスクをし、口をおさえ黙々と歩く人々 顔をあげている人はいない 糞尿の臭いが風に乗ってくる 荒涼とした海辺の情景を想起 赤茶けたブリキ屋根が海草の代わり 黒こげの押しつぶされた車 そこに電柱から伸びた電線が無数にからみついている まるで執念深い女の髪の毛 ベニヤ板の立て看に『骨さがしのため立入禁止』の文字 ボールペンの震える字・・・


当然これ以外にも目的に応じた質問を用意して聞くのですが、共通的にこれらのことは重要視しているようです。著者はそのように書いていませんが、これってまさに観察であり、プロファイリングですね。これがあることによって、目的に応じて用意する質問への回答に文脈が生まれるのだと思います。
このように、インタビューとは「観察する」こと、と言い換えることができると思います。マーケティングにおいても、「お客様に声を聞くことが重要」とインタビューするのはいいですが、単純に良い/悪いを聞くにしても、何を背景にそのように言っているのかを掴めないと回答に対する意味合いが見出せません。この時「なぜ」と直接的に聞くことも一つの手段ですが、上記のような人物や情景を「観察する」ことで見えてくることも多いはず。

ちなみにこれ、日常のビジネスミーティングでも使える話かと。「空気を読む」「キャラを読む」ってところでしょうかね。

2011年8月18日木曜日

分析と整理の違い -ある決算レポートを読んで-

「これって分析って言うの?分析ってなんだろう。」
あるレポートを読んでいて思ったことです。
これがそのレポート>>日本医師会総合政策研究機構のワーキングペーパー「医薬品産業の2010年度決算」

「分析と整理を混同している」
読んでいて感じたことです。実際にこのレポートの中でも「~医薬品産業の決算を整理した」という記述もあれば、「連結経営指標(売上高、経常利益など)を用いて分析した」という記述もあり、混同していることがわかります。
ちなみに、特にこのレポートや機関を批評したいと言うことではなく、日常の業務の中でも往々にしてやってしまいがちな混同であると思うためのメモであることを断っておきます。

(ややこしいですが)それこそ整理をすると、下記のようなものは、事実を言葉で補足したり、事実を並べ替えたり比較したりした、情報の「整理」にあたると思われます。
・売上はXX%上昇した
・営業利益が1000億円以上の企業はXX社
・売上高、利益率等をランキングにする

では、「分析」とは何か。大辞泉によると、「複雑な事柄を一つ一つの要素や成分に分け、その構成などを明らかにすること」だそうです。
ビジネス的に考えますと、例えば、売上をその構成である単価×数量×客数に分解して、売上上昇要因を探る、あるいは、ランキング上位・中位・下位の企業情報を洗い出し、共通する法則性を見出す、といったことであると考えられます。
つまり、なぜそのような事実が生まれたのかという要因の探求と背景情報との紐付け(why)、を行うことです。

この「整理」と「分析」の違いは思った以上に大きく、表層的な事象の把握にとどまるか、本質的な問題や事象の根っこに辿り着こうとするか、そこには大きな溝があるように思います。
例えるなら、ゴルフで飛距離が伸びた時に、従来の平均よりもXXヤード伸びた、誰それさんと比べてYY%遠く飛んでいる、というのが「整理」。飛距離が伸びたのが、追い風によるものか、自身のトレーニングによるものか、クラブを変えたからなのか、要因を見極める、これが「分析」。「整理」だけではそこからほとんど何も重要なことは見えてきません。あっ、だから私のスコアは伸びないのかな。。

このwhyを探る「分析」を通じて、初めて、取り上げた事実は何を意味するのかというso whatに辿り着けるのかと思います。
単なる「整理」にとどまったところから、一足飛びにso whatに行くと、例えば「売上は軒並み上昇している⇒製薬企業儲けすぎ、もっと薬価下げても全然大丈夫」といった短絡的な打ち手が導き出されかねません。

と、偉そうに書いていますが、身の回りの資料を見てみると「分析という名の整理」が結構あったりします。自戒、自戒。。


そんなことを書いている中で、こんな言葉を見つけました。これもまた真実なり。
「あんまり自分がやりたいと思っていることを分析しようと思ったことはないんです。分析した途端にくだらなくなってくるから。」(宮崎駿)

軸を持つということ -フレデリック・バック展を鑑賞して-

記念すべき第1回目のBlog投稿。
何を書こうかと思いましたが、夏休み中の出来事を通して考えたことを少し。

先日、東京都現代美術館で開催中のフレデリック・バック展に行ってきました。

※開催概要はこちら

















フレデリック・バックと言えば、アカデミー賞受賞作品でもあるアニメーション「木を植えた男」を代表作に持つアニメーション作家。
※フレデリック・バックのホームページ
※Wikipediaの解説

素人目にも非常に画力のある作家で、印象的な色彩で描かれた多様な画風(作風)の作品が数多く展示されており、冒頭にはアニメーション「木を植えた男」の全編の上映も。飽きずに一点一点見入っていたので、出てくるのに2時間強かかりました。

恐らくバックは器用で技術もあって、作品のバリエーションや趣きは多様です。食うために、テレビのクイズ番組で何を描いているのかパネラーが当てるコーナーで、絵を描くような仕事もしていたようです。

一方で、一つ一つの作品のメッセージ性が強く、バックには、一つの軸(信念のようなもの)が通っているように感じました。「木を植えた男」に出てくる羊飼いがまさにそのような男で、世間の喧騒を離れ、フランスの山岳地帯にただ一人とどまり、荒れ果てた地を緑の森によみがえらせるのですが、まるで自身をそこに写しているのではないかと思うような内容でした。
バックの場合、軸(信念)は、自然環境保護であり、動物愛護であり、文明批判であったようです。
ちなみに、この「木を植えた男」の作成には5年半の歳月がかかっており、約2万枚の作画はバックほぼ一人でこなしたというから、ここにもその信念のようなものを感じます。

翻って、自分自身はどうかということを考えさせられました。自身が一生コミットしていける「何か」は見つけられているのか。日頃のサービス企画やマーケティングの中でも絶対譲れない軸となる「何か」は守れているのか。これがないと、いくらテクニックを身につけても、器用貧乏に終わるのだろうと思います。
改めてそんなことを考えさせてくれた展覧会でした。

※2011年10月2日(日)まで開催しているようですので、ご興味のある方は是非

About

ご覧いただきありがとうございます。
周回遅れでBlogを始めます。
このBlogと自分自身について紹介させていただきます。

About Blog

このBlogでは、その名の通り、一人のマーケターが仕事や日常生活を通じて感じたこと、考えたことをメモしていきます。
現在筆者が身を置く、医療とITに関連する事柄を中心に、幅広く経営や経済、果てはゴルフまで、制約なく拾っていきます。
共通することとして、広義な意味でのマーケティング(≒事業経営)の文脈における意味合いにまで洞察を深めることを目指します。

ちなみに、目的は大きく下記の3つです。(自分の備忘のために)
・アウトプット量を増やす
・ものごとの深堀りや内省を習慣とする
・定期的に自分を振り返る(定点観測する)

副次的にではありますが、本Blogが、ご覧になっていただけた皆様のお仕事や生活の一つのヒントになれば幸いです。
情報が溢れている(過ぎている)時代にあって、情報を得るだけで満足するのではなく、一度立ち止まり、そこから何か次のアクションに繋げるための思索をできればと思います。

About Me

現在は、医療に関するマーケティング支援をする企業に籍を置いております。
以前は、新卒で外資系ITコンサルティング会社、2社目で国内戦略コンサルティング会社と、一貫してコンサルティングに従事してきました。

関心のあるテーマは、医療、テクノロジー、イノベーション、新事業(サービス)企画、デザイン、スタートアップ、経営、ソーシャル、アジア、ゴルフなど。

将来的には医療等の社会的ニーズの高い領域において、グローバルにソリューションを提供できるサービスの開発・マーケティング、及びその事業経営を自ら行うことを目指しています。