2011年8月26日金曜日

「当たり前」を疑う -慣習というイノベーションの壁-

ビジネスの現場には色々な「当たり前」があります。

重要な書類は紙でやり取りするべき、契約書には「ハンコ」が押されているべき、営業したいなら訪問してくるか電話してくるべき、顧客の声は自分自身で現場に行って拾うべき、広報・採用・コンサル・広告といった専門的なことは専門の事業者に依頼すべき、などなど。これらは少し前の「当たり前」ですが、ほんの一部であり、数え上げればキリがありません。

ご存知のように、上に列挙した「当たり前」は今や崩れ始めています。そしてこの「当たり前」を切り崩すイノベーションが、一つのビジネスに成長していきます。上の例に対しては、電子の受発注、電子ハンコ、Skypeやメールでの商談、ソーシャルメディアでの傾聴、プロ職の内製化とそれを支援するビジネスツール、といったものが該当します。


 ・「当たり前」を切り崩すイノベーション
ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』で、イノベーションの機会として下記の7つを挙げています。(順番は確実性の大きい順だそうです)
  1. 予期せぬ成功や失敗
  2. ギャップの存在
  3. ニーズの存在
  4. 産業構造の変化
  5. 人口構造の変化
  6. 認識の変化
  7. 新しい知識の出現

「当たり前」を切り崩すイノベーションは、「2.ギャップの存在」に該当するのではないかと思います。「当たり前」の裏には、環境や時流の変化によって、フツフツと求めることのズレやこれまでのやり方への違和感が生まれてくるものです。
下記のドラッカーの記述がそれをうまく表現しています。
ギャップは、予期せぬ事象と同じように、一つの産業、市場、プロセスの内部に存在する。したがって、その産業や市場、プロセスの内部、あるいは周辺にいる者ははっきり認識することができる。まさにそれらは目の前にある。
しかし同時に、ギャップはそれを当然のこととして受け止めてしまいがちな内部の者が見逃しやすいものでもある。彼らはずっとそうだったという。しかし多くの場合、その「ずっと」が、実はごく最近のことにすぎない。

今は「当たり前」のことでも、かつては新しい試みだったはずです。上記のギャップに当てはめて考えると、当初はギャップがあったところもいずれ誰かが埋め、それに慣れる、そしてまた新たなギャップが生まれる、という繰り返し。

イノベーションを生み出すものが問うべきこと。それは、業界の慣習となっていることは本当に必要なことなのか、それは本当に求められているのか(実は惰性なだけではないか)、実はなくても困らないのではないか、慣習的なもので隠れてしまっているが実は他に真の価値があるのではないか、といったようなことなのかもしれません。


・慣習というイノベーションの壁
ここまでは、「当たり前」を疑い、それを切り崩すイノベーションが新しいビジネスを生み出すという話。「まあ、そうだよな」と感じられた方も多いと思います。ただ、そんな簡単にものごとが進むわけではありません。上記の「当たり前」と書いた事柄、「実は、うちまだそんな感じかも。。」という方も多いのではないでしょうか。

「当たり前」が崩れる現実を目の当たりにしても、まだこれまでの慣習を頑なに信じている、あるいは人に求める人たちがいる、ということも事実です。「俺はこうしていた」的な慣習です。私はこの慣習というものが、ビジネス、特に実務にイノベーションを起こす、一番のボトルネックになっているのではないかと思っています。

この現場レベル・実務レベルのイノベーションを生み出すのは、ビジネスモデルの転換といったビッグイノベーションよりも、意外とやっかいなものなのかも知れません。ビッグイノベーションは確かにパワーもコストも時間もかかるかも知れませんが、一つパタッと積み木が倒れると将棋倒し的に転換が進む傾向があります。なぜなら、それに抗う企業は消えてなくなるだけだからです。(極端に言ってます)

一方で現場レベル・実務レベルのイノベーションは、どこか端っこの方でパタッと積み木が倒れても端々にまでなかなか浸透していきません。企業や事業と違って、人には、合理性だけではなかなか連鎖の流れが生まれません。連鎖を邪魔するのが個人レベルまで染み込んでいる慣習であり、価値観であり、癖であり、怠惰です。そして、その慣習を築き上げた張本人こそが、組織の中ではパワーを持っており、合理が通用しない一つの要因になっているのです。


・その壁を越える鍵は何か
うまく定着していっている現場レベル・実務レベルのイノベーションは、この慣習というボトルネックをうまく解消しているのか、避けているのか、踏み倒しているのか。今関心があることの一つです。人って、始まりの頃の抵抗感と、今となっては当たり前だよねという感覚はあるのですが、「そう言えば知らぬ間に・・・」ということが多く、その知らぬ間のプロセスをとかく忘れがちです。ここにヒントがあるような気がしています。

答えはまだありません。もう少し悩んでみようかと思います。

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