2011年11月29日火曜日

これからのイノベーションの形 -MITメディアラボ所長伊藤穰一氏の講演を聴いて-

先日、「ソニー寄附講座 公開シンポジウム2011 人類・社会の新たなる発展をめざして」に参加してきました。このシンポジウム4回制のシリーズものだそうだが、そのうち2回目の「インターネットと人類の未来」という回に。登壇者は今年MITメディアラボの所長に就任された伊藤穰一氏と、慶応義塾大学環境情報学部の村井純教授。

予定があって、冒頭1時間ほどしかいられず、伊藤穰一氏の講演部分しか聞けなかったのだけど、非常に面白い講演でした。お二人のディスカッションまでいたかったな~。

講演の内容は、
・インターネットの出現によってイノベーションはどのように変わったか
・(事例として)インターネット大震災や中東の革命運動にどのように力を発揮したのか
・今後、インターネットをどのように活用し、ネット市民としてどのように振舞うべきなのか
といった内容だったように記憶しています。

伊藤氏が言うに、「Before InternetとAfter Internetで世界は大きく変わった」「イノベーションのスタイルが、中央管理型イノベーションから分散型イノベーションになった」ということ。通信やコミュニケーション、移動といった各種コストが大幅に下がり、イノベーションが大企業や公共のものだけではなく、誰にでも手掛けられるものになったと言います。この創発的なイノベーションが(大震災や中東の革命に代表されるような)各種取り組みとして現れてきているということです。

私は技術者ではないし、そこまでネットに詳しいわけではないので、イノベーションのあり方の変化という文脈で聞いていたのですが、伊藤氏もそれに近いことを言っていました。
インターネットは技術ではない。哲学である。

分散型イノベーションや創発的なイノベーションというものは、別にインターネットの技術的な側面に限った話ではなく、色々な分野に応用可能であるように思います。下記は講演中に紹介された象徴的な言葉です。

Rough consensus Running code. (David D. Clark)

簡単な共通認識で、まずやってみる。ソフトウェアの世界では、「アジャイル開発」という方法論があるらしいですが、企画やマーケティングの世界では「プロトタイプ」「β版」というところに近いでしょうか。高速に仮説検証を繰り返すことが必須ですが、非常にコストエフェクティブなやり方であるように思います。

Small Pieces Loosely Joined. (David Weinberger)

最近のネット界隈のスタートアップはTwitterでもInstagramでもなんでも立ち上がりはスモールチーム。企画・開発を小さくまずは走らせてみるのと同様に、それを担うチームも少数精鋭で身軽に意思決定早く、場合によっては方向転換や解体と集結を繰り返せることが理想であるように思います。

Tha Power of Pull. (John Seely Brown)

リソースとか技術を必要に応じて引っ張ってこれる力。これは最初はスモールチームで、という考え方とセットであるようにも思います。在庫と同じで資産を持ちすぎても重たくなってしまうだけ、最初から持っている必要はなく、手繰り寄せるネットワークを準備していればコトが起きてからでもアドホックに強いチームが組成できると言います。

Question Authority Think For Yourself. (Timothy Leary)

権威に従うのではなく、自身の信念に従う。もはや中央から何かイノベーションが出てくることを期待するのではなく、一人ひとりが何かを起こすことが重要。イノベーションコストは下がっているのでどんどんやったほうがいいということです。

Code is Law. (Lawrence Lessig)

一方で、誰でも世界を動かすチャンスがあるということは、誰にでも(ここではコードを書く人)法を作る人と同じくらい責任がある。例えば、中東のある国では顔認識やクラウドソーシングを利用し、デモ等の写真に写った反政府の人の名前を特定し政府が粛清している、ということです。先進国の秩序を保つための技術が弾圧に使われることがあるということを肝に銘じるべきということでした。

最後に、伊藤氏が話されていた「Serendipity」という言葉をご紹介。「偶然性」「偶発性」とでも訳すのでしょうか。最近は日本語で「セレンディピティ」という記述も見ますね。以下は、Wikipediaからの引用
セレンディピティ(英: serendipity)は、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉である。何かを発見したという「現象」ではなく、何かを発見をする「能力」を指す。平たく言えば、ふとした偶然をきっかけに閃きを得、幸運を掴み取る能力のことである。


以前とは異なり、入念に企画・計画を立てて、その通りにうまくいくことは少なくなった。ブラック・スワンにもあるように、世の中の意味のある事件は予想されていないものが大半。それであれば、何かが起きたらすぐ動けることにフォーカスしたほうがいい。その源泉は分散化イノベーションであり、インターネットである。というのが伊藤氏の主張であったように理解しました。

確かこのシンポジウムの夜だったか(違ったかな?)、頓知の井口CEOのツイッターで下記のような言葉の紹介が。まさにSerendipity。
“Less is more.”(「少ない方が豊かである。」) Ludwig Mies van der Rohe(建築家)

2011年11月23日水曜日

「当たり前」のように見えて当たり前にできないこと -『スティーブ・ジョブズⅠ/Ⅱ』を読んで-

スティーブ・ジョブズの評伝(/)を読んだので、また性懲りもなく「ジョブズ」をタイトルに。。読み物としても、経営本としても、どちらの側面からも面白い内容でした。

しかし、ジョブズとうのは、エゴの塊でセルフィッシュで攻撃的で無神経で、でも天才で情熱的で目的に一直線で完ぺき主義で・・・。ここまで一方で恨みを買っていて、一方で愛されている人はいないのではないかと思いました。

さて、読み物としては、人それぞれ爽快感や高揚感や嫌悪感といったさまざまな読後感を持っていただければと思いますが、ここでは経営本・マーケティング本として、一つ気になった箇所をピックアップ。他にも色々気になる、示唆に富む箇所は多いんですが。


・アップルのマーケティング哲学
ジョブズのマーケティングの父、マイク・マークラ。マイク・マークラとはここにあるように、アップルの初期の頃(ちょうどアップルⅡを開発していた頃)、ジョブズが経営やマーケティングについて教えを得た人物のようです。

マークラがまとめた「アップルのマーケティング哲学」というペーパーには3つのポイントが書かれていたと言います。
1番目は<共感>だった。
「アップルは、他の企業よりも顧客のニーズを深く理解する」。顧客の想いに寄りそうのだ。

2番目は<フォーカス>。
「やると決めたことを上手に行うためには、重要度の低い物事はすべて切らなければならない」

3番目に挙げられた同じく重要な原理は、<印象>だった。わかりにくいかもしれないが、これは、会社や製品が発するさまざまな信号がその評価を形作ることを指している。
「人は、たしかに表紙で書籍を評価する。最高の製品、最高の品質、最高に便利なソフトウェアがあっても、それをいいかげんな形で提示すれば、いいかげんなものだと思われてしまう。プロフェッショナルかつクリエイティブな形で提示できれば、評価してほしいと思う特性を人々に印象付けることができる」


・「当たり前」のことか?
「共感、フォーカス、印象」

これ、あまり何も考えずに読むと、「当たり前」のことのように思えます。つまりこのようなステップだと理解すると確かに当たり前かもしれません。
「顧客ニーズを理解し、やることを選択し、より良く磨き上げる」

プロセスに落とし込むとこうなる感じでしょうか。
「市場調査を通じて汲み取るべきニーズを抽出し、開発すべき機能に優先順位をつけ選び、機能を作りこむ」

これは正しい理解なのでしょうか。


・「当たり前」とは真逆のアプローチ
上記のプロセスは、課題の対象や、置かれている状況・ステージによっては、必要なプロセスではありますが、本書の他の部分をよく読むと、それぞれアプローチが実は真逆だったりします。(特に革新的な新製品・サービスを対象としたアプローチではあるかと思います)

「共感」
ジョブズの中で、恐らく、共感=市場調査ではありません。下記は彼の有名な言葉です。
「「顧客が望むモノを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、何を望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。ヘンリー・フォードも似たようなことを言ったらしい。「なにが欲しいかと顧客にたずねていたら、『足が速い馬』と言われたはずだ」って。欲しいモノを見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんてわからないんだ。だから僕は市場調査に頼らない。歴史のページにまだ書かれていないことを読み取るのが僕らの仕事なんだ。」
「アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明したとき、市場調査をしたと思うかい?」

一見、ジョブズのおごりのように見えなくもない発言ですが、「顧客のニーズを深く理解する」「顧客の想いに寄りそう」ということを、現時点で顧客の持つニーズ・想いを対象とするか、今は気付いてないんだけども潜在的に顧客の持つニーズ・想いを対象とするか、という違いなのではないかと思います。
潜在的なもの、未来的なものに焦点を当てた共感こそがジョブズの凄みだと理解しました。(何か汎用化できるといいのですが。。)

ちなみにですが、ソニー創業者の一人である盛田昭夫氏も似たようなことを言っています。やはり'what they "will" want'なのです。
"We don't ask consumers what they want. They don't know. Instead we apply our brain power to what they need, and will want and make sure we're there, ready."

「フォーカス」
ジョブズの意図するところは、単純に機能をロングリスト化したものに優先順位をつけ、リソースを鑑み順位が上のものから着手していくということではありません。
「フォーカスするということは、フォーカスするものに対しての「イエス」を表明すると同時に、フォーカスしないものへ「ノー」という決断を下すことなのです。」

彼は、アップルとしてフォーカスできることは、2つ(多くて3つ)といったようなことを、よく言っていたようです。iPhoneのシンプルさは芸術的ですし、事業の側面でも、1997年にアップルに戻った際に溢れかえった製品ラインナップを一気に絞ったと言います。

これは非常に勇気がいる作業です。「とは言ってもどれも重要で。。」的な世界を本当に白黒ばっさり選択・集中をできている企業を実体験として身近で見たことがありません。(ものの本ではキレイにケースとなっているんですが。。)

「印象」
本書では、製品・サービスのUIやデザイン、マテリアルもさることながら、梱包するパッケージやアップルストアの店頭デザインといったともすると外注の対象としがちなものまで、印象を大事にしたエピソードが多く書かれていました。
そこに共通するコンセプトは「シンプル」でしょう。ともすると印象をよくするために、足し算の発想であれもこれも足してしまい結果印象がぼやけてしまうということはありがちな罠ですが、ここでもジョブズは引き算の発想をベースにしていたようです。

アップルⅡのパンフレットには、レオナルド・ダ・ビンチのものとされる格言「洗練を突きつめると簡潔になる」が記されていたようです。

※シンプルという哲学(そしてその難しさ)については、ここにも以前書きましたので、ご参照ください。>『「シンプル・イズ・ザ・ベスト」と言うけれど -ジョブズ追悼号を読んで考えたこと- 』

アップルの取っているエンドツーエンドでソフトからハードまでクローズドに統合する戦略にも、この印象をコントロール可能にするための拘りを感じます。(対するマイクロソフトのWindowsやグーグルのAndroidはオープン戦略)


・「当たり前」に整理することすら間違いかもしれない
もっと言うと、前述(「顧客ニーズを理解し、やることを選択し、より良く磨き上げる」)のように線形なステップ論としてこの考え方を理解しようとすること自体が間違いなのかもしれません。
本書でも数多くのエピソードとともに記述されていましたが、ジョブズは開発中の製品・サービスについて頻繁に、皆で合意したものでも、完成まで間近な状況でも、「何か違う、変えなくてはいけない、こっちの方が良い」となったら夜中の2時に関係者にメールして、翌朝にはオフィスに乗り込みひっくり返したそうです。
きっと「共感、フォーカス、印象」が彼の中ではパラレルに走っていて、行ったり来たりをグルグルしているのでしょうね。(裏には、決めたことを着実に早くまさに死力を尽くして実現していくアップルメンバーの支えが必要不可欠だったのでしょうが)


うまくまだ全てを消化できていませんが、当然ながらジョブズの全てをコピーすることは無理なので、うまくエッセンスを自分の中に取り入れられればな、と思っている祝日の夜でした。。

2011年11月13日日曜日

医療においても課題解決先進国となれるか -『日本「再創造」』を読んで-

久しぶりに読書メモを。『日本「再創造」 ― 「プラチナ社会」実現に向けて』という本で、筆者は元東京大学総長で現三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏。前著の『「課題先進国」日本―キャッチアップからフロントランナーへ』は非常にビジョナリー且つ論理的・ファクトドリブンな議論ですごく腹に落ちた覚えがあります。

本書は前著の延長に位置づけられるような内容で、基本的に主張や提言の趣旨は変わらず、より具体的な取り組み例の紹介にページが割かれている印象です。

ざっくりと論旨だけ整理すると下記のような感じでしょうか。

  • 日本は新興国だけでなく先進国と比較しても、各国が今後直面するであろう課題に先んじて直面している国
  • 大きな課題は2つで、「高齢化」と「有限の地球(資源等の枯渇)」
    ※「有限の地球」とは、エネルギー、資源、温暖化、大気・海洋・土壌等の汚染、食料、水における地球環境資源が有限であることがもたらす問題
  • また国家や市民生活の成熟に伴い、自動車や家電といった人工物の普及は飽和し、需要が「普及型」から「創造型」にシフト
  • 現状は新興国の「普及型需要」を狙った企業戦略が主となっているが、これも頭打ちするのは時間の問題。並行して「創造型需要」を狙うのが妥当な戦略
  • 「高齢化」と「有限の地球」という課題に直面する中で、「創造型需要」はイノベーションの宝庫
  • 「有限の地球」という点においては、自動車、エアコン、給湯器、冷蔵庫、照明、太陽電池、蓄電池、燃料電池といった領域
  • 「高齢化」という点においては、安全な自動車、オンデマンド交通、ロボットスーツ、家事支援ロボット、自助介護支援型ハウス、目や歯の再生技術といった領域
  • ここでもう一つ課題があり、それが「爆発する知識」
  • 知識量・情報量が膨張し、且つ知識や専門領域が細分化する中で、知識を統合する「知の構造化」が必要
  • 上述の「創造型需要」を生み出していくためには、断片的で膨大な知識を統合する連携と情報技術が必要
  • 今後の方向性として、国内に「創造型需要」を作り出す「プラチナ社会構想」を提案
  • 各自治体で市民と産官学が連携し、地域ごとの快適な暮らしを実現しようとする社会作りの取り組みを開始
    ※「プラチナ社会」とは、エコで低炭素な社会を実現していく「グリーン・イノベーション」、すべての人たちが参加する活力ある高齢社会を実現していく「シルバー・イノベーション」、人が一生の間成長を続け、ITを効果的に活用する「ゴールデン・イノベーション」の3つを有機的に結びつけるイノベーションをイメージ

前著同様に、本書でも上記の論旨を支えるファクトが数字で示されており非常に納得感がある論理展開がされていました。前著よりも取り組み例が豊富ではあると思うのですが、取り組みといってもまだ緒についたレベルのものも多そうな印象で、正直前著を読んでいればsomething new はあまりないかもしれません。。もちろん、前著も含め読まれたことない方は一読をお勧めします。

ちなみに、個人的に興味分野である「医療」についても、自治体ベースの取り組みとして幾つか取り上げられていたので、下記に引用します。
たとえば、岩手県遠野市では、インターネットを利用することで医師不足に対応することに成功している。遠野市では産婦人科の医師を確保するのに苦労してきた。そしてついに一人もいなくなってしまった。もっとも近い釜石市の病院でも、通常の道路状況で四十分かかる。これでは誰も安心して子供を産めない。万策尽きた市では、情報技術を利用した新システムを考案した。各地の産婦人科医とインターネット経由で診察契約を結び、市で助産師を雇用したのだ。これによって、妊娠中も含め端末の向こうの医師の診察を受けて健診からお産までもが可能となったのだ。
遠野市で構築したシステムは、産婦人科問題に限らない。日本に医師不足に悩む地域は多い。過疎地域のほとんどがそうであるといっても過言ではない。おそらく、インターネットによる医師の診察、現場で対応する看護師、助産師、X線技術師、検査技師などコメディカルと呼ばれるさまざまな医療技術師の人々、現場で利用しやすい診断チップや薬剤、機器、緊急時に患者や医師を輸送する緊急用ヘリコプターといった要素からなる全体システムが有効だろう。

福井県では、今は個別に管理されている健康診断データとレセプト(医療費を計算するための診療報酬明細書。薬、処置、検査などが書いてある)のデータと介護のデータを一元化する取り組みを東京大学の高齢社会総合研究機構と共同で始めている。

これらの例は、まさに「知の構造化」が医療において非常に重要である、裏返すと現状医療に関する情報や知識は潜在・散在している、ということを表しているように思います。筆者も下記のように言っています。
知識の爆発と領域の細分化は医療においても生じているばかりか、もっとも顕著に問題化しているといってよい。
(中略)
医療は、個人の健康という全体像を対象にしたいのだが、知識は専門領域に細分化していく。検査が悪いのでも、医師が悪いのでもない。知識を構造化し、全体像を正しく取り出せる支援の仕組みが必要なのだ。

日本は果たして、医療における課題解決先進国となれるのでしょうか。世界に目を向ければ下記のような例があるようにダイナミックな知の統合が商業ベースで進められています(いわゆるビッグ・データの流れ)。
「IBM、世界中のデータを解析して医療改革を支援する新しいソフトウェアを発表」より抜粋
IBM Content and Predictive Analytics for Healthcareは、医療機関における大量の非構造化データを検索・分析するのを支援するソリューションとなっている。医療分野の非構造化データとは、医師のメモや初診票、退院時病歴要約、その他の資料などであり、その量は5年ごとに倍増しているという。コンピュータで生成したデータとは異なり、これらのデータは構造化されていないため、ビジネス・アナリティクスの活用は困難で、通常は放置されていた。

IBM Content and Predictive Analytics for Healthcareは、(中略)埋もれている医療情報を正確に抽出し、情報の関連性を把握することで高度な診断や治療に活用できるようになる。これにより、医療従事者やその他の専門知識を要する職業の人々および経営者が、解析した情報を活用するだけでなく、これを検索、調査、発掘、監視および報告するための手段を提供するとしている。

課題先進国≠課題解決先進国とならないようにしていかなくてはなりませんですね。

2011年11月1日火曜日

マーケティング・リサーチにおけるハイプ・サイクル -技術が広げる可能性-

ハイプ・サイクル(Hype Cycle)。それは、調査会社ガートナーが考案したモデルで、主にIT関連の新しい技術が登場した後の、業界の反応や新しい製品・サービスとして取り込まれていく動きを、時間経過によるサイクルとして類型化したものです。

大きく言うと、新しい技術が登場してからの動きとして、下記の5つのステージがあると言われます。
  • テクノロジの黎明期(Technology Trigger):画期的な新技術が発表され、潜在的な可能性に期待が集まるステージ
  • 過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations):(多くの失敗例の中で)一部の成功例がクローズアップされ、過剰な期待が起こるステージ
  • 幻滅期(Trough of Disillusionment):実際に利用してみると幻滅するステージ
  • 啓蒙活動期(Slope of Enlightenment):正しい利用方法が確立され、周知されると再度注目が集まりだすステージ
  • 生産性の安定期(Plateau of Productivity):安定的な利用をされるステージ

2011年版の先進テクノロジに関するハイプ・サイクルも発表されており、下記は概念図の抜粋です。
ガートナー プレス・リリース『「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2011年」を発表 市場を変革する可能性のあるテクノロジの成熟度を分析』より抜粋






















新しい技術が次々と出てくるIT業界ならではかも知れませんが、数が多すぎて目視するのも厳しいレベルですね。同じ時期に複数の新しい技術が登場するとい うことは、常に業界の先端を行く機会が存在するということを表すとともに、それだけ定着前に消える技術も多いわけで、リスクも相応にあるということかと思 います。

最近よく話題に出てくるようなトレンドを見ていくと、「クラウド・コンピューティング」「NFC(Near Field Communication)ペイメント」「ソーシャル・アナリティクス」「グループ・バイイング」「ゲーミフィケーション」等は軒並み「過度な期待のピーク期」ですね。定義からしてそりゃそうですよね。。

また、「3Dバイオプリンティング」とか「モバイル・ロボット」なんていうよくわからないけど、なんか凄そうなものもあって、想像すると楽しいですね。


さて、ハイプ・サイクルをマーケティングという文脈で見るとどのような意味合いがあるのでしょうか。マーケティングのOne of themではありますが、マーケティング・リサーチにおけるハイプ・サイクルを記事にしているブログがありましたので、ご紹介します。

Hyping Research Methodologies

下記がそのハイプ・サイクルの図(上記ブログより引用)。



各ステージ毎に挙げられているトレンドは下記です。「幻滅期」から「生産性の安定期」にかけて挙げられている項目には、一部違和感がありますが、時系列に並べると、順番としてはこのような感じなのかとは思います。

※違和感というのは、感覚的には既に定着しメインストリーム化している「オンライン・サーベイ」が「幻滅期」にあったり、既に特定のセグメントをカバーするための補完的手段でしかないと思われる「電話・郵送サーベイ」が「生産性の安定期」にあったり、という点です。つまり、全体的にトレンドはもう少し右(先)に動いていて、且つハイプ・サイクルの右端から消える、あるいはカーブが再度下降するという状態がありうるのではないか、と思うわけです。
テクノロジの黎明期
・Research games
・Mobile research

過度な期待のピーク期
・Social media research
・Text analytics
・MROCs(Market research online communities)

幻滅期
・Sentiment analysis
・Online surveys

啓蒙活動期
・Online access panels

生産性の安定期
・Phone surveys and mail surveys
・Focus groups

マーケティング界隈で最近サービスのリリースとして活況があるのは、ちょうど「過度な期待のピーク期」にあたるアイテムですね。なんか毎週のように各社がリリースをしている感があります。

業界でその先を行こうとするのではあれば、「テクノロジの黎明期」にある「Research games」や「Mobile research」なんでしょうかね。マーケティングの本流では既に「過度な期待のピーク期」にあると思われるゲーミフィケーションを使ったリサーチ、ありそうです。位置情報の活用、購買やイベント参加直後の声といった即時性のある情報の活用、写真の活用などなど他にも色々できそうなモバイルを使ったリサーチ、これもありそうです。どちらも最後のステージに進むかわかりませんが。。