しかし、ジョブズとうのは、エゴの塊でセルフィッシュで攻撃的で無神経で、でも天才で情熱的で目的に一直線で完ぺき主義で・・・。ここまで一方で恨みを買っていて、一方で愛されている人はいないのではないかと思いました。
さて、読み物としては、人それぞれ爽快感や高揚感や嫌悪感といったさまざまな読後感を持っていただければと思いますが、ここでは経営本・マーケティング本として、一つ気になった箇所をピックアップ。他にも色々気になる、示唆に富む箇所は多いんですが。
・アップルのマーケティング哲学
ジョブズのマーケティングの父、マイク・マークラ。マイク・マークラとはここにあるように、アップルの初期の頃(ちょうどアップルⅡを開発していた頃)、ジョブズが経営やマーケティングについて教えを得た人物のようです。
マークラがまとめた「アップルのマーケティング哲学」というペーパーには3つのポイントが書かれていたと言います。
1番目は<共感>だった。
「アップルは、他の企業よりも顧客のニーズを深く理解する」。顧客の想いに寄りそうのだ。
2番目は<フォーカス>。
「やると決めたことを上手に行うためには、重要度の低い物事はすべて切らなければならない」
3番目に挙げられた同じく重要な原理は、<印象>だった。わかりにくいかもしれないが、これは、会社や製品が発するさまざまな信号がその評価を形作ることを指している。
「人は、たしかに表紙で書籍を評価する。最高の製品、最高の品質、最高に便利なソフトウェアがあっても、それをいいかげんな形で提示すれば、いいかげんなものだと思われてしまう。プロフェッショナルかつクリエイティブな形で提示できれば、評価してほしいと思う特性を人々に印象付けることができる」
・「当たり前」のことか?
「共感、フォーカス、印象」
これ、あまり何も考えずに読むと、「当たり前」のことのように思えます。つまりこのようなステップだと理解すると確かに当たり前かもしれません。
「顧客ニーズを理解し、やることを選択し、より良く磨き上げる」
プロセスに落とし込むとこうなる感じでしょうか。
「市場調査を通じて汲み取るべきニーズを抽出し、開発すべき機能に優先順位をつけ選び、機能を作りこむ」
これは正しい理解なのでしょうか。
・「当たり前」とは真逆のアプローチ
上記のプロセスは、課題の対象や、置かれている状況・ステージによっては、必要なプロセスではありますが、本書の他の部分をよく読むと、それぞれアプローチが実は真逆だったりします。(特に革新的な新製品・サービスを対象としたアプローチではあるかと思います)
「共感」
ジョブズの中で、恐らく、共感=市場調査ではありません。下記は彼の有名な言葉です。
「「顧客が望むモノを提供しろ」という人もいる。僕の考え方は違う。顧客が今後、何を望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。ヘンリー・フォードも似たようなことを言ったらしい。「なにが欲しいかと顧客にたずねていたら、『足が速い馬』と言われたはずだ」って。欲しいモノを見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんてわからないんだ。だから僕は市場調査に頼らない。歴史のページにまだ書かれていないことを読み取るのが僕らの仕事なんだ。」
「アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明したとき、市場調査をしたと思うかい?」
一見、ジョブズのおごりのように見えなくもない発言ですが、「顧客のニーズを深く理解する」「顧客の想いに寄りそう」ということを、現時点で顧客の持つニーズ・想いを対象とするか、今は気付いてないんだけども潜在的に顧客の持つニーズ・想いを対象とするか、という違いなのではないかと思います。
潜在的なもの、未来的なものに焦点を当てた共感こそがジョブズの凄みだと理解しました。(何か汎用化できるといいのですが。。)
ちなみにですが、ソニー創業者の一人である盛田昭夫氏も似たようなことを言っています。やはり'what they "will" want'なのです。
"We don't ask consumers what they want. They don't know. Instead we apply our brain power to what they need, and will want and make sure we're there, ready."
「フォーカス」
ジョブズの意図するところは、単純に機能をロングリスト化したものに優先順位をつけ、リソースを鑑み順位が上のものから着手していくということではありません。
「フォーカスするということは、フォーカスするものに対しての「イエス」を表明すると同時に、フォーカスしないものへ「ノー」という決断を下すことなのです。」
彼は、アップルとしてフォーカスできることは、2つ(多くて3つ)といったようなことを、よく言っていたようです。iPhoneのシンプルさは芸術的ですし、事業の側面でも、1997年にアップルに戻った際に溢れかえった製品ラインナップを一気に絞ったと言います。
これは非常に勇気がいる作業です。「とは言ってもどれも重要で。。」的な世界を本当に白黒ばっさり選択・集中をできている企業を実体験として身近で見たことがありません。(ものの本ではキレイにケースとなっているんですが。。)
「印象」
本書では、製品・サービスのUIやデザイン、マテリアルもさることながら、梱包するパッケージやアップルストアの店頭デザインといったともすると外注の対象としがちなものまで、印象を大事にしたエピソードが多く書かれていました。
そこに共通するコンセプトは「シンプル」でしょう。ともすると印象をよくするために、足し算の発想であれもこれも足してしまい結果印象がぼやけてしまうということはありがちな罠ですが、ここでもジョブズは引き算の発想をベースにしていたようです。
アップルⅡのパンフレットには、レオナルド・ダ・ビンチのものとされる格言「洗練を突きつめると簡潔になる」が記されていたようです。
※シンプルという哲学(そしてその難しさ)については、ここにも以前書きましたので、ご参照ください。>『「シンプル・イズ・ザ・ベスト」と言うけれど -ジョブズ追悼号を読んで考えたこと- 』
アップルの取っているエンドツーエンドでソフトからハードまでクローズドに統合する戦略にも、この印象をコントロール可能にするための拘りを感じます。(対するマイクロソフトのWindowsやグーグルのAndroidはオープン戦略)
・「当たり前」に整理することすら間違いかもしれない
もっと言うと、前述(「顧客ニーズを理解し、やることを選択し、より良く磨き上げる」)のように線形なステップ論としてこの考え方を理解しようとすること自体が間違いなのかもしれません。
本書でも数多くのエピソードとともに記述されていましたが、ジョブズは開発中の製品・サービスについて頻繁に、皆で合意したものでも、完成まで間近な状況でも、「何か違う、変えなくてはいけない、こっちの方が良い」となったら夜中の2時に関係者にメールして、翌朝にはオフィスに乗り込みひっくり返したそうです。
きっと「共感、フォーカス、印象」が彼の中ではパラレルに走っていて、行ったり来たりをグルグルしているのでしょうね。(裏には、決めたことを着実に早くまさに死力を尽くして実現していくアップルメンバーの支えが必要不可欠だったのでしょうが)
うまくまだ全てを消化できていませんが、当然ながらジョブズの全てをコピーすることは無理なので、うまくエッセンスを自分の中に取り入れられればな、と思っている祝日の夜でした。。
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