本書は前著の延長に位置づけられるような内容で、基本的に主張や提言の趣旨は変わらず、より具体的な取り組み例の紹介にページが割かれている印象です。
ざっくりと論旨だけ整理すると下記のような感じでしょうか。
- 日本は新興国だけでなく先進国と比較しても、各国が今後直面するであろう課題に先んじて直面している国
- 大きな課題は2つで、「高齢化」と「有限の地球(資源等の枯渇)」
※「有限の地球」とは、エネルギー、資源、温暖化、大気・海洋・土壌等の汚染、食料、水における地球環境資源が有限であることがもたらす問題 - また国家や市民生活の成熟に伴い、自動車や家電といった人工物の普及は飽和し、需要が「普及型」から「創造型」にシフト
- 現状は新興国の「普及型需要」を狙った企業戦略が主となっているが、これも頭打ちするのは時間の問題。並行して「創造型需要」を狙うのが妥当な戦略
- 「高齢化」と「有限の地球」という課題に直面する中で、「創造型需要」はイノベーションの宝庫
- 「有限の地球」という点においては、自動車、エアコン、給湯器、冷蔵庫、照明、太陽電池、蓄電池、燃料電池といった領域
- 「高齢化」という点においては、安全な自動車、オンデマンド交通、ロボットスーツ、家事支援ロボット、自助介護支援型ハウス、目や歯の再生技術といった領域
- ここでもう一つ課題があり、それが「爆発する知識」
- 知識量・情報量が膨張し、且つ知識や専門領域が細分化する中で、知識を統合する「知の構造化」が必要
- 上述の「創造型需要」を生み出していくためには、断片的で膨大な知識を統合する連携と情報技術が必要
- 今後の方向性として、国内に「創造型需要」を作り出す「プラチナ社会構想」を提案
- 各自治体で市民と産官学が連携し、地域ごとの快適な暮らしを実現しようとする社会作りの取り組みを開始
※「プラチナ社会」とは、エコで低炭素な社会を実現していく「グリーン・イノベーション」、すべての人たちが参加する活力ある高齢社会を実現していく「シルバー・イノベーション」、人が一生の間成長を続け、ITを効果的に活用する「ゴールデン・イノベーション」の3つを有機的に結びつけるイノベーションをイメージ
前著同様に、本書でも上記の論旨を支えるファクトが数字で示されており非常に納得感がある論理展開がされていました。前著よりも取り組み例が豊富ではあると思うのですが、取り組みといってもまだ緒についたレベルのものも多そうな印象で、正直前著を読んでいればsomething new はあまりないかもしれません。。もちろん、前著も含め読まれたことない方は一読をお勧めします。
ちなみに、個人的に興味分野である「医療」についても、自治体ベースの取り組みとして幾つか取り上げられていたので、下記に引用します。
たとえば、岩手県遠野市では、インターネットを利用することで医師不足に対応することに成功している。遠野市では産婦人科の医師を確保するのに苦労してきた。そしてついに一人もいなくなってしまった。もっとも近い釜石市の病院でも、通常の道路状況で四十分かかる。これでは誰も安心して子供を産めない。万策尽きた市では、情報技術を利用した新システムを考案した。各地の産婦人科医とインターネット経由で診察契約を結び、市で助産師を雇用したのだ。これによって、妊娠中も含め端末の向こうの医師の診察を受けて健診からお産までもが可能となったのだ。
遠野市で構築したシステムは、産婦人科問題に限らない。日本に医師不足に悩む地域は多い。過疎地域のほとんどがそうであるといっても過言ではない。おそらく、インターネットによる医師の診察、現場で対応する看護師、助産師、X線技術師、検査技師などコメディカルと呼ばれるさまざまな医療技術師の人々、現場で利用しやすい診断チップや薬剤、機器、緊急時に患者や医師を輸送する緊急用ヘリコプターといった要素からなる全体システムが有効だろう。
福井県では、今は個別に管理されている健康診断データとレセプト(医療費を計算するための診療報酬明細書。薬、処置、検査などが書いてある)のデータと介護のデータを一元化する取り組みを東京大学の高齢社会総合研究機構と共同で始めている。
これらの例は、まさに「知の構造化」が医療において非常に重要である、裏返すと現状医療に関する情報や知識は潜在・散在している、ということを表しているように思います。筆者も下記のように言っています。
知識の爆発と領域の細分化は医療においても生じているばかりか、もっとも顕著に問題化しているといってよい。
(中略)
医療は、個人の健康という全体像を対象にしたいのだが、知識は専門領域に細分化していく。検査が悪いのでも、医師が悪いのでもない。知識を構造化し、全体像を正しく取り出せる支援の仕組みが必要なのだ。
日本は果たして、医療における課題解決先進国となれるのでしょうか。世界に目を向ければ下記のような例があるようにダイナミックな知の統合が商業ベースで進められています(いわゆるビッグ・データの流れ)。
※「IBM、世界中のデータを解析して医療改革を支援する新しいソフトウェアを発表」より抜粋
IBM Content and Predictive Analytics for Healthcareは、医療機関における大量の非構造化データを検索・分析するのを支援するソリューションとなっている。医療分野の非構造化データとは、医師のメモや初診票、退院時病歴要約、その他の資料などであり、その量は5年ごとに倍増しているという。コンピュータで生成したデータとは異なり、これらのデータは構造化されていないため、ビジネス・アナリティクスの活用は困難で、通常は放置されていた。
IBM Content and Predictive Analytics for Healthcareは、(中略)埋もれている医療情報を正確に抽出し、情報の関連性を把握することで高度な診断や治療に活用できるようになる。これにより、医療従事者やその他の専門知識を要する職業の人々および経営者が、解析した情報を活用するだけでなく、これを検索、調査、発掘、監視および報告するための手段を提供するとしている。
課題先進国≠課題解決先進国とならないようにしていかなくてはなりませんですね。
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