以前のエントリー>マーケティングの第一歩 -『Twitterアクティブサポート入門』をご献本いただきました-
「アクティブサポート」とは何か、なぜ重要なのか、どのように進めるべきものなのか、といった点が、いわゆるガッツリハウツー本とぼんやり概念本のちょうど中庸をいくようなちょうど良いバランスで書き進められています。
概念から具体的なツールまで順を追って説明されているので、新しいテクノロジーやコミュニケーションの手段が出てきたことで生活者にこれまでと異なったアプローチが必要だとぼんやり考えられている方、具体的に導入をどのように進めればよいか方法論を検討されている方、実際に組織で始めているけどあまりうまくいっていない方、どの層にも読みどころある内容ではないでしょうか。(がっつり300ページ強!)
「アクティブサポート」の概要はここで>アクティブサポートについて
私は上記の中で言うと一つ目のぼんやりと考えている層(且つ生活者を相手にしたビジネスではない)ではあったので、考え方の部分で示唆を得ることが多かったように思います。パッシブからアクティブへ、という点からもわかるように、本書では、生活者の側から企業のコミュニケーションを考え直すことの重要性を説いているように感じました。その幾つかをご紹介します。
・「サイレントマジョリティ」という誤り
何か商品に不満や疑問を持ってもわざわざコールセンターに電話をしてくる生活者は少ないことが示すように、大多数の人は腹に一物抱えていても企業に何も言ってきません。これをマーケティング界隈ではサイレントマジョリティと言います。実際私もよく使っていました。
筆者は、「インビジブルマジョリティ」というのが正確であると言います。
これまでも消費者は黙っていた(サイレント)わけではないのです。彼らはずっと不安や不満を話していたんです。ただそれが企業に届いてなかっただけで、見えなかっただけ(インビジブル)にすぎません。じっさいあなたも周囲の家族や友人には不満を話していますよね。みんなそうです。生活者はだまっていたわけではなく企業が聞いていなかっただけというのは、確かにそうだなと。この企業の論理を生活者の視点で捉えなおさなくてはいけない。そしてソーシャルメディアというアクティブに生活者にリーチできる手段が出てきた今が、その絶好の機会であるというわけです。
・「囲い込む」というのは前時代的
EC業界では「新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかる」と言われているそうで、これは顧客を維持する(離反顧客を減らす)ことの重要性を意味しています。この時企業は顧客を「囲い込む」と言ってしまいがちですが、これがまた企業の論理。生活者からすると、良い商品・サービス、エクスペリエンス、サポートを提供してくれるなら「付き合い続けてあげてもいい」というスタンスなのです。実際に、過去に比べて生活者側に選択肢は多くなり、選択肢を乗り換えることのコストも一般的には低くなっているように思います。
この「付き合い続けてあげてもいい」という気持ちを引き出すための一つの手段がサポートであるということです。その一つの例がクレーム対応です。「クレームは最大のチャンス」と言いながらもこれまでは企業はそのクレームを待つしかなかった。これがソーシャルメディアによって可視化されるため、わざわざ問い合わせることなく去っていたはずの顧客と対話することができるというわけです。
ここで、面白い研究が紹介されていたのでご紹介。顧客満足度に関する研究の権威、ジョン・グッドマン氏の名を冠した「ジョン・グッドマン理論」が下記です。
- 不満を持った顧客のうちクレームを申し立て、その解決に満足した顧客の当該商品の再購入決定率は、不満を持ちながらクレームを申し立てない顧客のそれに比較してきわめて高い。
- 不満を持っていてもクレームを申し立てない顧客の90%は二度とその商品を購入しない。
クレーム対応に代表されるサポートは、何か新しい価値を提供するようなものではありませんが、顧客重視のコミュニケーションで有名な靴のECカンパニー、ザッポスのCEOトニー・シェイのこの言葉がその重要性を表しています。
お客さんは「なにをしてくれたか」は覚えていないかもしれない。でも「どんな気持ちにしてくれたか」はけっして忘れない筆者は、むしろアクティブサポートにおいて営業をしてはいけないとも書かれています。
・カスタマーサポートだけ、ネットだけ、の話ではない
カスタマーサポートが適任だがカスタマーサポートだけの話ではないし、ネットの話だがネットだけの話ではない、というのが適切でしょうか。生活者から見ると、カスタマーサポートは窓口ではあるけれどもロイヤリティや不満を感じるのは企業や商品という単位ですし、不満の解消の手段がネットであろうと電話であろうと同じように対応をしてもらわないと困るわけです。
全社的な課題認識を持って取り組むことには、企業としても意味があります。本書にはアクティブサポートを社内に導入するための、タイプ別上司攻略方法(各部門にとってのメリットが満載)がまとめられていますが、これなんかはアクティブサポートが実は色々な部署にとっても意味のある取り組みであるということが端的に表れている箇所かと思います。また、よりプラクティカルな問題として、例えばTwitterでのやり取りに「顔文字を入れるか」「語調をどうするか」というようなことは、企業としてのブランドにも大きく関わってくる話です。企業としてのポリシーが重要ということだと思います。
また、ネットの話だがネットだけの話ではない、というのは下記の記述に端的に表れているのではないかと思います。実際にアクティブサポートが実践できている企業はTwitterをそれ以外のサポート窓口と並列で考えているということです。
企業にとってソーシャルメディアはマーケティングや広報が主導する窓口の認識であっても、お客さん側に立って考えればひとつの企業なのですから、窓口ごとに対応が変わることは論外ですし、別の窓口に問い合わせた際にまた同じ情報を聞くのはとても失礼なことです。
さらに、副次的な効果も企業は期待できます。巻末にはこの分野で先駆的に取り組みをされているソフトバンクモバイルの担当者のインタビューが掲載されているのですが、その中に、アクティブサポートによる社内の変化として、カスタマーサポートからの報告やお願いに対する、他部門の受け止め方と改善のスピードが良くなったというエピソードが語られています。生活者の側からものごとを捉えなおしたことで、良い変化を生む事例ですね。
非常にランダムではありましたが、気になったところをピックアップしました。マーケティングに関わる方には、他にも立場によって色々な示唆の得られる書籍であると思います。
一つ気になったのは、効果測定の部分。企業の取り組みとしてやる以上、説明責任が問われてくるわけですが、本書でも色々と効果指標が紹介されているものの、これといった決定打はまだない印象で、著者も曖昧にしておられる感じを覚えました。ある程度このような取り組みが進んだ暁には、その成功事例・失敗事例から帰納法的に適切な指標が見出せる日は来るのでしょうか。
最後に以前のエントリーで、個人的に気になるポイントとして挙げていた下記の3点。
・ゼロベースで消費者にアイデアを出してもらう、ということはどうなのか
・「Twitterアクティブ~」の”~”に当てはまる他の言葉はないか
・B2Bのビジネスへの応用はどうなのか
@smashmediaさんから下記のようなコメントをいただきましたので、ご紹介をして終えたいと思います。使える/使えないではなく程度の問題だと。手段を(Twitterだけというように)限定すると難しくはありますが、パッシブをアクティブに転換するという観点からは、色々考えていけることがありそうです。
ツイッターに限らず、できる・できないという可否の問題というのはあまりなくて、あるのは向き・不向きだけだとぼくは思ってます。
なので商品開発でもB2Bでもできなくはないと思う反面、向いてはいないだろうとも思うんですね。
レビューありがとうございます。
返信削除効果測定については決定打がないのは真実ですが(中長期的な施策なので、あえていうなら顧客満足度やNPSになります)、そもそも企業ごとに改善すべき課題は異なるわけですから、断言しづらいというのが正直なところです。
そのほかぼくの伝えたいことがしっかり伝わっていてうれしく読ませていただきました。
とくにサポートについては、「サポートが万全である企業」というイメージを醸成することができれば、サポートを体験しないお客さん(購入前はもちろん未体験ですし、多くの既存顧客も体験してない人のほうが多い)も支持してくれるという点は大事だと思っています。
ほんとうにありがとうございました!
河野さん、早速のコメントありがとうございます!
返信削除効果測定は課題や目的によるというのはその通りだと思います。裏返すと、各企業が何のためにアクティブサポートをやるのか、というところを明確にすることがまずもって重要ということですかね。
サポートを体験しないお客さんの支持も高めるというのは、これまでなかなかできなかったことですね。逆に言うと、不支持を増やすことも簡単ということではあるので気をつけないと。。
今回は、ランチに始まり、どうもありがとうございました!
おっしゃるとおり、目的もなしにはじめちゃいかないんですよね。そういうケースも少なくなさそうなのですが。。
返信削除いろいろ取り組まれたら、お話を聞かせてくださいね。