2013年7月22日月曜日

提案を引き出す力 -提案を受ける側が心がけたいこと-

ビジネスは誰かが誰かに提案(営業)しなければ始まりません。プロジェクトにしろ何かのサービス/ソリューション提供にしろ、会社間でのビジネスにおいて、「提案」のフェーズは非常に重要です。今回は少し「提案」について考えてみたいと思います。

■提案の位置づけ
提案について、単に取り引きが成立すればよいという視点は近視眼的です。実行と成果を見据えた時、問題の設定、ゴール/スコープの合意、内容の質を決めるアイデア、お互いの信頼関係、協働チームとしての役割分担など、実際に案件が走り始めてからの成否を決める要素を概ね方向づけるのが、提案というフェーズです。

例えば、コンサルティングファームのクライアントに対する提案活動は、単価(当然能力も?)の一番高いパートナーやシニアマネジャークラスが担うことが多く、提案の重みがわかります。提案に際して、お金をかけてリサーチをかけたり知見のある人を引っ張ってきたり、相応のパワーをかけるものでして、提案書そのものに対価をもらってもよいレベルなのです。なぜなら、提案において行われる「問題の設定」が、プロジェクトを進めるに当たって本来は一番重要な作業なのですから。マナーの悪い企業ともなると、コンペを装ってトップレベルのファームに提案書を出させて、その内容でもって少し安く請けてくれる(ファームからスピンアウトした人がやってたりする)ブティックファームに提案書に沿ったプロジェクトを投げるというケースもあると聞きます。

とにかく、コンサルティングに限らず、モノを右から左に流すだけならともかく、今時、取りあえずぼんやりと何かやることだけ決まっていてあとは始まってから決めましょうなんてことは滅多になく、提案の段階で相当に中身にまで踏み込んだ議論がなされることが多いと思います。提案の質がその後を決める、言い換えると、ここで何も決まらなかったり、変な方向に決まったりした場合、大きく後に尾を引くことになります。

■提案を「受ける側」も提案の質を左右する
さて、ビジネスにおける提案には、「する側」と「受ける側」があります。提案の質を決めるのは、当然提案する側の力量に大きく左右されることは言うまでもないですが、一方で、提案を受ける側の「提案を引き出す力」というのが、提案の質を高めるためには重要なのではないかと最近感じています。

上述したように、プロジェクトが決まり実行に移された際に肝となる内容が方向づけられる以上、提案を受ける側、つまりその実行によって直接的に自らのビジネスにインパクトを受ける側が、提案内容に積極的に関与していくことが求められるのではないかと思います。(社内の意思決定者に向けた)提案を一緒に作る力、と言い換えてもいいかもしれません。

■提案を引き出す力
以下に、「提案を引き出す力」として、提案を受ける側が心がけたいことを書き出してみたいと思います。私は最近はもっぱら、提案を「する側」の立場なのですが、身近なケースで、この人・企業は提案を引き出すの上手だなー、こういう人・企業とはいいディスカッションできているなー、というのをイメージして書いています。

・事前に論点を(必要なら宿題を)出しておく
何をやるかは決まっていて、RFP(Request for Proposal)を投げてあとはベンダーを決めるだけというケースは別として、プロジェクトの必要性を議論するとこから始まるようなケースで、提案を受ける側って事前の準備を驚くほどしていないです。個人的統計から言うと、事前に主体的に論点出しなどをして提案する側に宿題を出す率10%未満。

もちろん提案内容について準備をするのは提案をする側なのですが、議論の出発点のレベル感を上げるために、何を聞きたいか、議論したいか、何を判断のために準備しておいてほしいか、事前に伝えておくべきです。これら、提案する側が仮説を持って臨む力量があれば良いですが、「まずはざっくばらんに・・・」とか言いながら提案する側が何も準備していないという情けないケースもあり、性善説はそんなに通用しないと思った方がいいのではないかと思っています。

・アジェンダを明確にする
一つ目に関係しますが、提案当日に何を議論し、何をクリアにすべきかをその場で最初に意識合わせをしておく必要があります。そうでないと、一方的で的外れな提案という名の手前味噌な紹介に終始されたり、途中で話が逸れてそのまま本来とは別の話を惰性で聞いて終わりということになりかねません。

これも基本的に提案する側が用意するものなのですが、これも驚くほどアジェンダを用意していない提案者というのは多い印象がありますので、別に紙でなくてもいいので最初に主体的にアジェンダは確認するべきだと思います。「今日私たちがお聞きして議論したいことはこの3つです」みたいに最初に提示してしまうのもありかもしれません。それにちゃんと答える展開を組み立てられるかで提案者の力量を測ることも可能です。

・ビジネスのゴール/課題を明確に話す
何を成すために、何を解くために提案を受けているかをはっきりと提示すべきです。提案を聞いていて、わかっているぞ感を出すためか、いきなりテクニカルな話とか瑣末な確認を入れてくる人がいますが、そんなことは後で良くて、提案者が話す内容はあくまでも手段であり、その前に目的がどこにあるのか、その目的を達成するためにどのような提案をできるのかを、しっかりとインプットしておくことが必要だと思います。これをクリアに提示できないのであれば、提案を受けるべき段階ではないのかもしれません。

相手のビジネスや課題を理解しないままに提案をしてきて、ある日あまりに初歩的なことを理解していないことに気付いて愕然とするケースというのがあるものです。意地悪ですが「弊社のビジネスのゴール、あるいは現状の課題についてどのような仮説をベースに今回のご提案を位置づけられていますか?」というような質問をしてしまっても良いかもしれません。

・場をコントロールしすぎない
ここまでのポイントと矛盾するように思えるかもしれませんが、提案を単なる説明会ではなく、内容を高める議論をする場と捉えるのであれば、目的やアジェンダは明確に定めながらも、自由に意見を出し合えて提案の既存アイデア以上の発想の広がりが生まれるような議論が可能な場づくりが必要かと思います。上下関係を意識させるためか何なのか、単に想定外を嫌っているのか、司会進行から、説明の進め方への指示、さらには質疑応答の指名まで、自身の筋書きに沿った進行をしようと場を過剰にコントロールしようとする人がいます。そういう場では提案書の内容以上の議論の発展は生まれずらいですし、今ある提案についての粗探しで議論が逆にシュリンクするという実感があります。

・真摯に聞き、真摯に応える
知ったかぶりをしない。自身の知識をひけらかすことを目的に質問しない(内容を理解し、議論の質を高めるための質問をする)。そもそもイコールパートナーとして話をちゃんと聞く。
質問には答えられる範囲ではっきり答える(駆け引きのつもりなのか、提案の質に関わる内容を変にごにょごにょ曖昧な返答をする人多いです)。わからないなら調べて答えるようにする(多分ほにゃららな感じなど適当に返さない)。答えられないなら答えられないと言う。
全て対等に同じ目的を持って議論を進める前提条件です。なんというか、提案とか抜きにして、マナーというか姿勢の問題かもしれないですが。

・期待を語る
提案者に対して、どのような強みに注目していて、何を期待しているのかを語ることも重要だと思います。これには二つの効用があって、一つは、提案する側が、何を軸に据えて提案することが望ましいのか、競合があるとしたら何を差別化のポイントとして打ち出すことが良いのかを考えるヒントになる点です。もう一つは動機づけ効果です。そんなものビジネスを取りに来ているんだからなんでこっちが動機づける必要があるんだという考えもあるかと思いますが、結果として自身のビジネスに跳ね返ってくる内容で、大したコストもかからずに提案の質が上がるのであれば、やっても損はないのではないでしょうか。社内で部下に何か提案をしてもらう時には皆さん普通にやっていることだと思いますが、それを社外に対してもやるだけです。

・アイデアを積極的に出す
アイデアは提案する側が出すものとは限りません。当然、ビジネスのインサイダーたる受ける側の方が、よりビジネスにおけるニーズや課題解決のポイントをわかっており、このようなアイデアややり方であれば目的を実現できるのではないかという仮説は提案者以上にリアリスティックに持てるのではないかと思います。

あまり提案者のケイパビリティやイメージに縛られず、「例えばこういったことってできるんでしょうか?」という問いかけをすることは非常に有意義だと思います。そこでダメな提案者なら「うちはこれこれをならできますが、それはちょっと・・・」と紋切り型の対応をするでしょうが、目的に対してコミットして提案をしようとしている提案者なら、手段としてどのような方法(他社と組むとか)があるのか考えたり、あるいはそのアイデアに着想を得て「少し違いますがこういったことなら・・・」と提案をしてくるでしょう。

・ネクストステップを明確にする(そして、やる)
これもまた提案する側がしっかりとグリップすればよい話の一つかもしれませんが、「じゃあそういうことで(どういうことで?)」「また何かあったら教えてください」「適宜情報交換させてもらえれば」みたいな締りのない終わり方をしないことです。可能性がないならお互いの時間の無駄ですからはっきりと次はないことを伝え、条件付きで可能性があるのならそれを確認するための宿題を決め、具体的に前に進めるのであればもう一度合意した現時点での方向性を確認し進め方とタイムラインを決めるべきです。

そして、決めたら、やる。提案をする側が宿題をしないのは問題外ですが、提案を受ける側が宿題をちゃんとやらずに次の打ち合わせに臨み、「いやー実はまだ確認が取れていませんで・・・」と全く前回と同じ議論で堂々巡りをするというケースというのはよくある話です。

・不必要に大勢で参加しない
これだけ少しレベル感違う気もしますが。特に内資の大企業に多いですが、提案となるとやたらと関係者を集めて大人数で聞きに来る企業があります。そのメンタリティを考えてみると、実行まで見据えて関係者を巻き込んでおこうとしているのか、はたまた意思決定の責任を分散すること(お前も聞いていたよな効果)を狙っているのか、よくわかりませんが、そういう場というのは、非常に静か(別に注意を傾けて聞いているということではなく関心が薄いだけ)で、質疑応答でもあまり質問が出ず、出たと思えば本質に関係のない自身の立場を代表した質問で、もちろん一つの目的に向けて自由に発想を広げてアイデアを出したり議論をしたりということなど期待ができないというのが経験上の印象です。情報共有だけなら、後で個別にやりたいところです。

【番外編】
・遅刻しない、敬意を持った言葉づかいをする(などの最低限のマナー)
くだらないですが、意外と重要かも。こういう最低限のことできない人(意識的/無意識的に業者扱いしてしまう人)って意外と多くて、そういう対応を見せていると、相手も次第にルーズになります。提案する側の準備も(半分無自覚に、半分意図的に)おろそかになり、提案の質もどんどん下がります。


こう書いてみると、ビジネス上あまりに当たり前なことで普通やってるだろうという内容が多いですが、自身が「お客様」の場合、意外とこの当たり前がしっかりとできていないことって多いのではないでしょうか。文中にも書きました通り、提案をする側がパーフェクトに提案と議論を組み立てられる提案者なら気にしなくてもいい内容も多いのですが。実際はそうでもないことの方が多いですから。。

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