マーケティングリサーチ:12の新しい潮流 -『WHAT’S NEXT IN ONLINE AND SOCIAL MEDIA RESEARCH?』-
ビッグ・データの可能性 -『科学の「第4のパラダイム」』(HBR11月号)より-
この「ビッグ・データ」というのは2011年に入ってからマッキンゼーが言い出した言葉のようなのですが、一度はその原典にあたっておかないといけないだろうということで、マッキンゼーから出ている「ビッグ・データ」に関する論文を少し読んでみました。
(少々というのはまとめブログとサマリをザッとレベル。英語な上にボリュームが相当なもので。。)
紹介ブログ:Big data:The next frontier for innovation,competition,and productivity
論文サマリ(PDF)
論文全文(PDF)
■ビッグ・データのもたらす定量的なインパクト
まず、論文に紹介されていたビッグ・データのもたらす定量的なインパクトの具体的事例を(日本語化して)抜粋。
・たった600ドルで世界中の音楽すべてを格納できるドライブを購入できる
・50億台もの携帯電話が使われていた(2010年)
・300億ものコンテンツが毎月Facebook上では共有されている
・たった5%のIT費用の増加で、年間40%増のペースでデータが作り出されている
・235テラバイトのデータがアメリカ議会図書館には納められている(2011年春)
・米国の17業種中15の業種で1社あたりのデータ量がアメリカ議会図書館を超えている
・ビッグ・データの活用によって、米国のヘルスケアでは年間3000億ドルの価値創出が期待される(スペインの年間ヘルスケアコストの2倍)
・ビッグ・データの活用によって、EUの公共セクターでは年間2500億ユーロの価値創出が期待される(ギリシアのGDPを超える)
・個人の位置情報データを活用することで年間6000億ドルの消費者価値創出が期待される
・ビッグ・データの活用によって、小売の営業利益に60%の改善が見込める
・ビッグ・データを活用するために、米国だけで、14万人~19万人以上の分析人材の不足が予想され、150万人のマネジャーが必要とされる
こう見ると確かに大きなインパクトや変化がもたらされるということが分かります。
■ビッグ・データのもたらす変化や課題
折角なので、論文の章立てと概要のみをザッと抜き出しておきます。
1. Data have swept into every industry and business function and are now an important factor of production
ビッグ・データは業種や業務機能のワクを超えて、あまねく領域において労働力や資本とともに生産活動における重要なファクターになっているということです。2009年の時点で、米国において1000人以上の従業員を抱える企業1社あたりの保有データ量は少なくとも平均200テラバイトを超えるそうです。(ちなみにウォルマートはこの2倍だそう)
2. Big data creates value in several ways
大きく5つの方向性でビッグ・データの効用がありうると書かれています。
・Creating transparency
データの透明性が高まり、アクセスがよくなるため、仮にセクションが別れていてもそれぞれのデータを統合し、早く高頻度に最終的な価値創造につなげることができる
・Enabling experimentation to discover needs, expose variability, and improve performance
在庫情報から病欠情報までありとあらゆるデータがほぼリアルタイムで手に入るので、成果につなげるための計画的な実験を繰り返し行うことができる
・Segmenting populations to customize actions
カスタマーのより細かいセグメンテーションが可能になるため、ニーズに沿ったカスタマイゼーションが容易になる
・Replacing/supporting human decision making with automated algorithms
より洗練された分析、自動化されたアルゴリズムによって、人の意思決定の質向上をサポートすることができる
・Innovating new business models, products, and services
新しい製品・サービス、ビジネスモデルを創出するために活用することができる
3. The use of big data will become a key basis of competition and growth for individual firms
ビッグ・データを活用するということは、競争や成長の重要なファクターになってきており、リーディングカンパニーとして他社に水をあけるためには必須のこととなってきているようです。既存の競合企業も新規参入企業もこぞってデータドリブンの戦略立案を深いレベルでリアルタイムに行ってくるだろうということです。
4. The use of big data will underpin new waves of productivity growth and consumer surplus
生産性向上や消費者への利益還元を生み出す新しい波になるのではないかということです。冒頭にも数字を紹介しましたが、実際に、ビッグ・データの活用は、小売に営業利益の60%増をもたらし、個人の位置情報データは消費者に6000億ドルの経済価値をもたらすと言われているそうです。
5. While the use of big data will matter across sectors, some sectors are set for greater gains
業種を問わずビッグ・データの影響はあるが、特に幾つかの業種ではそのインパクトが大きいのだということです。ここでは特に、コンピューター・電機産業、情報産業、金融・保険産業、行政が挙げられています。
6. There will be a shortage of talent necessary for organizations to take advantage of big data
冒頭に数字を紹介した通り、ビッグ・データの活用を企業で行っていくにあたっての人材不足がいずれ起こってくるということです。
7. Several issues will have to be addressed to capture the full potential of big data
ビッグ・データの活用を進めるにあたって、幾つかの問題が生じると書かれています。
一つは、データポリシーの問題。いわゆる、プライバシー、セキュリティ、知財、信頼性の問題です。
二つ目は、技術的な問題。物理的な容量の問題から処理技術の問題、あるいは方法論的な問題等がありそうです。
三つ目は、組織や人材の変化の問題。往々にしてトップの新しいことへの理解レベルは低いもので、その中でいかに組織や人材を変えていくかが問題であると言います。
さらに、データへのアクセスの問題。複数の情報ソースからデータを集め統合する必要が出てきますが、その中で第三者から情報を得る等の連携が必要になってくるとし、どのようにステークホルダーを束ね情報共有を促進させるかが重要だといいます。
最後に、業界構造の問題。特に、競争がない公共領域や、成果での評価があまり進んでいないヘルスケアの領域など、データを使った価値の創出に対するバリアがありそうな業界があるということです。
■雑感
データを解析したからと言って、それだけでマネジメントもイノベーションも自動的に行えるわけではないですが、少なくとも論文に記載のあるような”a few data-oriented managers”にはならないようにしないといけないですね。人材不足ということも言われていますので、逆にこの領域へのスペシャリティがキャリア的にはレバレッジになってくる可能性はありますね。
また、この論文ではビッグ・データの可能性の大きさやそのありどころについて多面的に述べられているのですが、実際に実務に落とすためには、どのような目的で、どのようなデータを収集し、どのような切り口で解析するのか、その企業ならではのコンセプトや方法論が求められると思います。この独自性や切り口の新しさが、ビッグ・データが企業の競争力の源泉となるかどうかの鍵を握りそうです。「難しいですよね。であればお手伝いしますよ。」というのがマッキンゼーの狙いでしょうかね。。
もう一点、企業の最低限のデータリテラシーは必要であると思いますが、一方で、各社そこに力を入れてくる以上、それだけでは差別化できないということも言えるのではないかと思います。データとは別の次元で自社なりの差別化要因、方法論がますます求められるということも言えるのではないでしょうか。
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