2011年9月16日金曜日

マーケティングリサーチ:12の新しい潮流 -『WHAT’S NEXT IN ONLINE AND SOCIAL MEDIA RESEARCH?』-

何で知ったか忘れたのですが、豪州のMarket & Social Research Societyで開かれたカンファレンスでの『WHAT’S NEXT IN ONLINE AND SOCIAL MEDIA RESEARCH?』という演題のスピーチ内容が興味深かったのでご紹介します。スピーカーはRay Poynterという人で、『The Handbook of Online and Social Media Research: Tools and Techniques for Market Researchers』という書籍の著者のようです。(すいません、知りません。。)

スピーチ資料の原文はこちら(英語・PDF)


・マーケティングリサーチ:12の新しい潮流
オフラインからオンラインへマーケティングリサーチの舞台が移ってきたことは周知の通りではありますが、このスピーチでは、そのオンラインのリサーチにも大きく早く変化が訪れていると述べられています。
下記が、その中で挙げられている新しい潮流あるいは手法です。

  1. Social media listening
  2. Text analytics
  3. Netnography
  4. MROCs
  5. Community panels
  6. The gamification of research
  7. DIY research
  8. Neuroscience and biometrics
  9. Behavioural Economics
  10. Mass and auto ethnography
  11. Research Bots
  12. Mobile research


・それぞれの潮流の概要
気になられた場合は原文を読んでいただくとして、1,2行くらいでそれぞれの概要をざっくりとメモします。

1. Social media listening
ソーシャルメディアで自然発生的に起こる会話を集約し分析する手法。従来のようにリサーチャーによって「作られる」会話ではないところがポイントではあるが、得たいトピックに関する会話が起こるかどうかは未知数。「それってリサーチではなくモニタリングじゃないの?」とか「会話を抽出される方は使われるって了解しているの?(匿名性の問題)」とか、まあ色々と論じられているようです。

2. Text analytics
これは従来からありますが、いわゆるテキストマイニングですね。1のソーシャルメディアリスニング等が広がってくると、より定性情報を多くのリサーチで扱う必要が出てくるため、もっと進化が必要なのでしょう。

3. Netnography
どうも造語のようですが、ネットにおけるエスノグラフィー(ethnography)のことのようです。リアルのエスノグラフィーは、消費者のお宅にお邪魔してどのように生活していて自社製品をどのように使っているのかといったことを見ていくわけですが、これをネット上の消費行動について見ていくということでしょうか。被験者側のパーミッションをもらっていないと大変なことになりそうですね。

エスノグラフィーとは:知っておきたいIT経営用語

4. MROCs
これは結構最近マーケティング界隈で話題の手法。「Market Research Online Community」の略で、その名の通りオンラインコミュニティの中で定性・定量の両面からリサーチをするのですが、最大の特徴は参加者間の会話やつながりからインサイトを得るということのようです。スピーチの中では、長期的な発展の可能性として、下記のように書かれています。ソリューション創出や商品開発にまでつながると面白いですね。
Short term communities tend to be used as a replacement methodology for other qualitative methodologies. Longer term MROCs tend to be seen as a more general research resource, seeking to co-create solutions for the brand.

下記ブログの解説でMROCの概要は理解できます。
MROCを考える:マーケティング・リサーチの寺子屋

5. Community panels
簡単に言うと、リサーチ会社のパネルを使うのではなく、自前でパネルを用意し、しかも単なるリサーチパネルとしてだけではなく、様々なコミュニケーションのインフラとして使うといったことのようです。MROCと割と近い概念のようで、スピーチの中でも、MROCは通常50から500のメンバ、コミュニティパネルは5000から50000のメンバで構成されると、対比的に書かれています。パネルを外部に出すよりもスピードは上がりますし、長期的に考えるとコストも抑えられるのかもしれません。

6. The gamification of research
マーケティングの世界ではゲーミフィケーションという言葉はよく聞くようになりましたが、「ゲームが持つプレイヤーを活性化させるノウハウを、ゲーム以外の領域に使うこと」を、リサーチにも応用しようということのようです。確かに面白い考え方だとは思いますが、スピーチ中にもあるように、単発のリサーチ用に設計をしてというのはコストと時間的に難しそうです。継続的に何かデータを収集したりモニタリングしたりという目的には適うのかもしれません。

ゲーミフィケーションについては、下記に詳しいです。
ゲーミフィケーションとは何か? 概念の基本と現状:MarkeZine

7. DIY research
言うまでもないかもしれませんが、Do It Yourselfということで、自社でコミュニティを持っていたり、独自に何かしらのパネルにリーチできる手段を持っている場合には、もう外部に委託などせずセルフでやってしまいましょうという流れです。「Survey Monkey」なんかが有名(最近日本にも上陸)ですが、セルフで質問設計から画面作成まで非常に廉価で簡単にできるサービスもありますし、例えばfacebookにファンページを持っていればそこにリンク貼ればいっちょあがりというわけです。

リサーチ専門の人以外にも門戸が開かれるようになるということで質がどうなのかとか、外部事業者の意味合いは何になってくるのかなど、色々と論議はありそうです。

8. Neuroscience and biometrics
直訳すると、神経科学と生体測定。従来は、リアル(対面等)で広告やキャンペーン映像等を被験者に見せてその反応を見るということが主流。これをオンラインでやれるかという話のようなのですが、方法論等含め私には理解しきれない部分ありでした。加えて、面白そうではあるのですが、それ相応の投資をすることが得られるアウトカムに対して見合うのか、少し疑問です。

この手法のイメージはこんな感じです。
ニールセン・カンパニー、脳波でマーケティング効果測定の新事業:六本木経済新聞

9. Behavioural Economics

これも直訳すると行動経済学。これは手法というよりも、人間の認知のあり方や心理的なバイアスといったことがリサーチにどのように影響するかということを、しっかりと踏まえてリサーチを行わないといけないですよね、ということのようです。

10. Mass and auto ethnography
これまでの人類学(anthropology)や前述のエスノグラフィー(ethnography)を、市民/顧客/利用者、あるいは本人/周辺の関係者、といった形で、よりスケールアップすることを指しているようです。スマートフォンやウェブカメラ等を活用することで、より広い対象に効率的に質を落とさず、本来の深堀りを行えるかが鍵のようです。

11. Research Bots
いわゆるbotのようですが、botを使ってインターネット上にある会話やキーワードを拾ってくる形。1のSocial media listeningに近い気がしますが、こちらはモニタリングというのが適切な手法ですかね。また、別のbot活用法として、ソーシャルメディアでの発言等から、消費者をタイプ分けし、このタイプはこのような生活をしていて、何に関心があり、どのような友達をもっているかといったことを類型化していくということも紹介されています。

12. Mobile research
これは読んで字の如くですね(力尽きてきたわけではありません。。)。これまで紹介してきたような手法がスマートフォン等のモバイルを通じてより実用性や拡張性を持ってきているということです。


・そしてBig Data
これまでの12の変化はそれはそれで大きな変化であると言いながら、そんなものBig Dataに比べればちっぽけなもの(tiny)だと書かれています。ちなみにBig Dataとは、クレジットカード利用情報、POSデータ、会員カード情報、web上のあらゆる情報、といったところを総称する文字通り「大きなデータ」のこと。(下記に詳しいです)

Big Dataがもたらしているデータルネッサンス これからはデータが無限におもしろい:Tech Crunch

ESOMAR Global Market Researchの2010年のレポートによると、マーケティングリサーチの売上のうち、50%はいわゆるリサーチ(サーベイ、フォーカスグループ等)からではなく、Big Dataを使ったデータやインサイトの販売によるものだとのことです。言い方を変えると、サーベイをせずともデータはそこにある、ということであり、その活用こそ知恵の出しどころといった形でしょうか。


・所感

このように眺めてみると、色々な変化が起こってきそう(起こっている?)で面白いですね。自分のビジネスに取り入れてみたいものも幾つかあります。

12の潮流、及びBig Dataの内容を俯瞰して見ますと、大きく下記の2つが言えそうな気がしています。
  • 自前化の流れ
  • 外部プロに求められる領域のシフト

自前化についてはどんなサービス領域でも領域の成熟度が増せば自然と起こってくる現象だとは思っていまして、実際に私が以前にいたコンサル業界でも同様のシフトは起こっていました。
自前化が進む理由は幾つかあるかと思いますが、バラバラと思いつくままに挙げると下記のようなところでしょうか。
  • リサーチとプロモーションの距離が近くなり、自らメンテナンスする「コミュニティ」という考えが重要になってきている
  • データは既にある(Big Data)ので、それをあとはどう活用するかが問題になっている
  • 領域の成熟に伴い、スキルのコモディティ化が起こり、内製化が可能(コスト安)になってきている
  • 変化の激しいビジネス環境において、スピードが求められている
  • 消費者や顧客との双方向性のコミュニケーションが求められる中で、当事者の役割が増している
  • 消費者の価値観が多様化する中で、コンテキスト(文脈)の分かる人間が直接声を聞くことが求めらている
  • ますますのコスト低減が求められている

一方で、外部の人だからできる、あるいは誰も知らないからまずは専門家が必要になる、といった領域も増えてきてるのかと思います。そういった意味で、外部プロに求められる領域はシフトしていますが、まだまだ活躍の余地はありそうです。
スピーチの中では、リサーチを専門とする人は何をすればいいのか、という点について下記のように書かれていますね。
The opportunity is that market researchers can focus on putting the “Why?” into the picture, and thereby make the “What?” that Big Data can offer more valuable.


そもそも日本では、欧米に比べて、(既存の)マーケティングリサーチ自体の浸透がまだまだです。

※日本マーケティング・リサーチ協会:『世界における日本のMarketing Researchの概況2008』より抜粋




そんな中、早くも次の波が来ているということは非常にチャレンジングなことではありますが、乗り遅れないようにしないといけないですね。(手法におぼれることのないように。。)

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