2011年9月5日月曜日

続:課題解決の視野を広げる -慢性疾患における「未治療」の要因-

以前のエントリーで、糖尿病を例に、慢性疾患における病気にかかっているが未治療である潜在患者のボリュームの大きさを確認し、現在マーケティングの対象の中心となっている、病気に自覚的で治療をしている層、以外にも目を向けることの重要性を考えてみました。

課題解決の視野を広げる -糖尿病の予防、早期発見、治療を例に-

その中で、糖尿病の早期診断の鍵を握る「指先HbA1c検査」の普及~「糖尿病診断アクセス革命」、という記事を取り上げたのですが、そこから私がした整理(一部)が下記。

患者群を一般的に整理すると、大きく①非罹患(病気にかかっていない)と②罹患(病気にかかっている・いた)の2つ。
さらに、②は、②-1:未発見・無自覚で未治療、②-2:自覚あるが未治療(もしくはドロップアウト)、②-3:治療中、②-4:治療済み、という4つに大別されるように思います。
(中略)
今回の糖尿病のケースに当てはめると、①と②-4は記事からは不明、②-1は約325万人(罹患中約38%)、②-2は約325万人(罹患中約38%)、②-3は約237万人(罹患中約25%)、ということになります

前回のエントリーでは、この中でも「②-1:未発見・無自覚で未治療」について、上述の参照記事をベースに、検査や早期発見を促すシステム・支援の重要性について考えました。

一方で、「未治療」にはもう一つのセグメントがあり、それが「②-2:自覚あるが未治療」になります。数字だけ見ると②-1と同じくらいのボリュームがあります。変な言い方ですが、検診を受けていないために未発見・無自覚で未治療というのは、まだ理解ができますが、なぜ自覚はあるのに未治療という人がここまで多いのかということは一つ気になるポイントです。

参考までに、厚生労働省の調査から日本の健康診断受診率を調べてみたところ、平成16年度の数値ではありますが、概ね「受けた」が60%、「受けなかった」が35%といった割合です。(被雇用者は受診率高く、自営業者等は受診率低い、というバラつきはあります)恐らくこれらの健康診断には血液検査は入っていると思われるので、国民の60%は血液検査は受けているわけです。血液検査単体で受ける人はかなり意識の高い人だと考えると、上記の「②-2:自覚あるが未治療」は、おおよそこの60%から生まれていると考えられます。

医学情報誌『ランセット』に納められている論文「わが国における医療費抑制と医療の質:トレードオフはあるのか」には、日本で未診察・未治療が多い要因の一つとして下記を挙げています。

日本に総合診療の標準的ガイドラインと研修制度がないことと,予防サービスと治療サービスが分かれていること

背景理解や知識が不十分なため、正確な理解ではないかもしれませんが、要は、「かかりつけ医に定期的に診てもらって病気を見つけてもらう仕組みが不十分である」「見つけるプロセスと治すプロセスが分断されているため、見つけても治せない(ことが多い)」ということでしょうか。

前者については、「②-1:未発見・無自覚で未治療」に関係しそうで、特に健康診断を定期的に受けていない35%の層に大きく響きそうな内容です。
一方、後者についてが、まさに今回取り上げようとしている「②-2:自覚あるが未治療」に当たるのではないでしょうか。

確かに、自分について翻って考えてみると、健康診断で何かの異常値が示されてもそれがどれ程深刻かはあまり意識しない(意図的に調べたり動いたりしない)ですし、よっぽど異常値が出たとしてもネクストアクションがパッと出てくるような知識やリソースが自分にはありません。かといって、健康診断を受診した機関が、何か積極的に医療機関や治療方法を紹介してくれるようなことも、経験上ありません。

毎年だまっていても健康診断を受けられる人は、定期的な検診を受けられない人に比べて、かえって受け身なのかもしれません。この場合、個々人の「意識を高める」ということと、意識が低いことを前提に「見つけるプロセスと治すプロセスをシームレスにつなげる」ということと、どちらが効果が高いのでしょうか。
前回のエントリーもそうでしたが、今回も特別答えがあるわけではありません。自身への一つの問題提起として書きとめておきたいと思います。

前回のエントリーアップ後に、引用した記事の筆者の矢作先生から、こういった未治療なセグメントがボリュームとして大きいということは、「マーケティングという視点からは「潜在市場」という見方もできますよね。」というコメントをTwitterでいただきました。
(まさかご本人から直接コメントをいただけるとは思いませんでした。ありがとうございました。)

私もその通りだと思います。課題解決の意味合いも大きく、継続性の観点からも「市場」になりうる、こういった課題に向き合うということはマーケティングをやるものとして非常に意味のあることのように思います。引き続き考えていきたいと思います。

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