2011年9月2日金曜日

課題解決の視野を広げる -糖尿病の予防、早期発見、治療を例に-

いつもと少し毛色が異なるのですが、興味分野の医療に関して。

医療の世界におけるマーケティングという文脈で考えると、企業のマーケティング予算が投下されるのは、薬剤等の化学療法による治療や外科手術による治療に代表される「病気にかかっていると気付いている人で病院に行っている人」に対するソリューションや製品に関するものが多いのが現状かと思います。
一方で、全体観を持って医療全般に目を向けてみた時に、一番病気に苦しむ人を減らすことができるのはどのような部分なのか、同時にトータルで(国費も含めた)コストを一番抑えられるのはどのような方法なのか、ということは非常に気になる部分です。

そんな中で、実は「病気にかかっていると気付いている人で病院に行っている人」だけではなくて、もっと視野を広げて考えないと、という記事がありましたので、共有します。

糖尿病の早期診断の鍵を握る「指先HbA1c検査」の普及~「糖尿病診断アクセス革命」

まずは、数字について抜粋します。

  • 2007年の厚生労働省国民健康・栄養調査で日本の糖尿病人口は890万人と推定
  • 2008年の厚生労働省患者調査によると、医療機関を定期受診している糖尿病患者数は 237万人
  • 650万人もの糖尿病者が未治療、糖尿病有病者の実に3/4にも相当
  • その内のおよそ半数は血液検査を受けたことがなく、糖尿病を発症していることを全く自覚していない未発見糖尿病であると言われる

患者群を一般的に整理すると、大きく①非罹患(病気にかかっていない)と②罹患(病気にかかっている・いた)の2つ。
さらに、②は、②-1:未発見・無自覚で未治療、②-2:自覚あるが未治療(もしくはドロップアウト)、②-3:治療中、②-4:治療済み、という4つに大別されるように思います。
この5つのボックスの中で、果たしてどれがボリュームとして大きいのか、あるいは解決することのインパクトが大きいのでしょうか。

今回の糖尿病のケースに当てはめると、①と②-4は記事からは不明、②-1は約325万人(罹患中約38%)、②-2は約325万人(罹患中約38%)、②-3は約237万人(罹患中約25%)、ということになります。
人数だけで議論をするのは大変乱暴ではありますが、これだけ見ても、検査や早期発見を促すシステム・支援の重要性や、ドロップアウトを防ぐシステム・支援の重要性が垣間見えるのではないかと思います。(当然、治療技術の向上は重要だと思います)
また、この記事からでは①の数はわかりませんでしたが、同様に予防の重要性も言えるのではないかと思います。(また機会があれば調べたいと思います)

では何が、予防の意識が高くない、早期に発見されない、ドロップアウトしてしまう、といったハードルになっているのでしょうか。今回の記事は、上記の中でも特に②-1:未発見・無自覚で未治療、について取り上げられています。以下抜粋します。

なぜ糖尿病は放置されやすいのか?それは、糖尿病の大多数を占める2型糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状のないままに病状が進行していくことが特徴であり、検査を受けねば見つからないことが多いからである。
(中略)
「何の症状もないのになぜ血液検査を?」という意識の人々もいまだに多いのが現状。

この記事では、下記のような方法を通じて、検査を定着させることを提唱しています。

近年、複数のメーカーから開発・発売されている「微量血液検査装置」では、わずか1μlという、ごく微量の血液(蚊の吸う血液の1/5程度)からHbA1cを迅速(約6分)かつ正確に測ることができるようになった。このレベルの微量の血液で済むということは、すなわち、「指先穿刺でよい!」ということであり、このことは「自己採血が可能!」ということを意味している。指先自己穿刺採血は、これまで主にインスリン治療患者の自己血糖測定として、広く普及してきた方法であるが、これを今後はHbA1c検査にも応用していくことが可能となったわけである。これは、「採血=注射=痛い」というイメージなどにより、(静脈採血による)血液検査を敬遠する人たちにとって、大いなる福音である。

こんなに簡単に・楽にできるのか、という感想を持ちました。広く普及して欲しい良い方法だと思います。ただ、この方法は「採血イヤ」「面倒くさい」という課題の一つに対するものであり、そもそも無自覚のまま症状が進行するということを知らない、検査はお金がかかると思っている、等々、他にも検査を妨げている要因はいくつもあるはずです。

また、この記事では取り上げられていない、②-2:自覚あるが未治療(もしくはドロップアウト)についても、既に自覚がある分だけ治療に戻ってもらうことのハードルは低いのかもしれません。さらに、①非罹患(病気にかかっていない)についても、ボリュームは相当に大きいはずですから、ここの予防を徹底するだけでも相当なインパクトになるかもしれません。

国際的な医学情報誌『ランセット』日本特集号「日本:国民皆保険達成から50年」では、高血圧や高脂血症でも同様に未診断・未治療率が非常に高いということが書かれていました。未診断・未治療率が、高血圧で40%強、高脂血症で80%弱と、米国に比較して、がん治療等の高度医療の普及やアウトカムの基準の高さに対して、一般的な疾患の診断・治療率が非常に低い、ということだそうです。

日本と米国における高血圧症および高コレステロール血症の診療率と管理の状況(PDF)


これらは、「現行の」マーケティングの重要性を否定するものではありませんが、今目に見えている部分だけではなく、より広い視野を持たなければ、本当の意味での課題解決にはならないということを意味しているように思います。

課題解決の視野を広げるということは、目的の設定を変えるということに、言い換えられるのだと思います。今回の例でいくと、「治療している人をいかに完治に持っていくことができるか」から「潜在的な人たちも含めいかに治療に導き、継続してもらうか」という目的設定の転換です。これが答えかどうかは正直わかりませんが。

私自身の興味のある分野として、医療において設定すべき目的・課題解決については、引き続き調べたり考えたりしてみたいと思っています。(範囲が広すぎますし、問題が高度すぎるので、結構難しいのですが)

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