2011年9月24日土曜日

患者向けヘルスケアサービスの難しさ -患者に対価や参加を求めることのハードル-

先日(と言ってもだいぶ前)、Google Helthがサービス停止となり話題になりました。(リリース記事

ICT(※)を活用したヘルスケアサービスに限定した話になるかもしれませんが、日本における患者向けのヘルスケアサービスについても、大きく成功しているサービス・企業はあまりないように思いますし、幾つかのサービスについて知人に現状を(断片的に)聞くと、その運営の難しさを感じます。

※ICT:Information and Communication Technology(情報通信技術)の略であり、今日の医療系サービスのほとんどがこのICTになんらか関係していると思われ、製薬会社の新薬開発過程から病院での検査・治療システムまで多くの分野に活用されています。(ICT参考解説

そもそも、ヘルスケアICTの市場はどのような実態なのか、KDDI総研の「米国医療ICT動向と期待のベンチャー(PDF)」によると下記のような規模感のようです。残念ながら日本の市場規模は明記されていないのですが、グローバルでは市場は成長していることが窺えます。(一方で米国のシェアが上がるということは日本のシェアは不変もしくは減少というニュアンスも窺えます)

世界の医療ICT(Healthcare IT)市場は2008年で110億ドル、2015年には240億ドル(年成長率11%)と推計されている。そのうち、最大の市場が米国である。上記の世界市場のうち、2008年では米国が37%を占めるが、2015年には48%までシェアが上昇すると見られている。

また、この領域が「これから」の市場であると考えますと、ベンチャーが担う部分が大きい市場かとは思うのですが、同資料によるとベンチャーへの投資の見通しは下記のような状況です。市場関係者からの期待感も大きいようです。

Dow Jones VentureSourceによると、医療ICT分野へのVC投資額は、2009年の3億8800万ドルから2010年には4億6000万ドルと19%増加している。また、National Venture Capital Association (NVCA) と Dow Jones VentureSourceによるベンチャーキャピタリストへのアンケートでは、回答者の77%が、2011年に医療ICTへの投資を増やす計画と回答している。

では、医療ICTと言っても、一体どのようなビジネスが多いのか。これを見る限り、冒頭に提起した患者向けサービスはなかなか立ち上がらない・根付かない現状が窺えます。

医療費高騰を抑えるための根本的な対策は「予防医療の充実」および「健康的なライフスタイルの奨励」ということが諸方で叫ばれており、モバイル機器を利用して在宅ヘルスケアができるのでは、と期待する向きも多い。しかし実際には、「病院・開業医」と接点がない予防医療は保険の対象にならず、また予防医療は面倒で、消費者が自己負担してまでやろうとはなかなか思わないものだ。
(中略)
このため、ベンチャーや新技術の活躍が見られるのは、現在のところ、下記のようなニッチ分野となる。
  1. 病院向けの周辺機器・ソフト(タブレット、病院構内用通信機器、移動情報ターミナルなど)
  2. 医師向け意思決定サポートや、開業医向けなどの比較的小さいシステム(クラウド型電子カルテ、オンライン・アポイントメント管理システム、スマートフォン向け医療情報データベースなど)
  3. 手術後在宅ケアのためのシステム(スマート錠剤システム、遠隔心臓モニターなど)
  4. その他の在宅ヘルスケア、介護者サポート、医療情報サービスなど

また、別の出典によると、下記のような状況のようです。
出典元>>HealthTech FAIL: Lessons For Entrepreneurs From Health Startups Gone Awry:Tech Crunch

「2011年に資金調達したヘルスケアテックのうち、B2Bが51%、B2Cが29%、B2Drが20%。77%のベンチャーキャピタルが2011年にヘルスケアテックへの投資は増えると予想しており、既に35社が200万ドル以上を調達。ただしその80%はB2Bの企業。」

こちらもB2Cつまり患者向けの難しさを見て取ることができます。
この記事には「なぜ患者向けサービスがうまくいかないのか」というところも幾つか記載されていますが、個人的には、「患者にお金を払ってもらうこと」と「患者に色々と情報を入力してもらうこと」が特に難しいポイントではないかと思っています。「対価や役務の見返りとして患者にとってどのような嬉しいリターンがあるのか」という、モデル作りがまだ弱いということなのではないかと思います。

「患者にお金を払ってもらうこと」は言い換えるとユーザー課金であり、これは患者向けサービスならずとも、消費者向けサービスの中でも難しいポイントの一つです。広告モデルが氾濫している中で、例えばソーシャルゲームのようにうまい課金(言い方悪いですかね。。)のあり方がありうるのか、大きなチャレンジだと思います。

一方で、「患者に色々と情報を入力してもらうこと」は、患者に適切なサービスや情報を提供するという意味でも、あるいは患者を知りたい・リーチしたい事業者にデータを提供し収益化する(これができれば患者から対価をもらわなくてもよいモデルが可能)という意味でも、患者向けサービスの一つの重要なコンポーネントになってくるのではないかと思います。Facebookやアマゾン、食べログなんかはこれをうまくやっているのだと思うのですが、継続的にやってもらうインセンティブ付けが難しい部分かと思います。

これまた別の記事になりますが、冒頭に触れたGoogle Helthの失敗の原因について考察した記事(「RIP Google Health」)にも、患者に情報の入力をお願いすることの難しさが記載されていますので引用しておきます。

Few consumers are interested in a digital filing cabinet for their records. What they are interested in is what that data can do for them. Can it help them better manage their health and/or the health of a loved one? Will it help them make appointments? Will it saved them money on their health insurance bill, their next doctor visit? Can it help them automatically get a prescription refill? These are the basics that the vast majority of consumers want addressed first and Google Health was unable to deliver on any of these.


患者向けサービスは難しく、まだ規模としても大きくない。これは裏を返せば満たされないニーズや課題は多くあり、市場としては大きな機会でもあることを意味しているように思います。
何が患者向けに提供できるのかを明確に打ち出すことができ、適切な収益源を見極め、サービスコンテンツの構築そのものに患者の参加を促すモデルを構築できたものが、この領域の勝者になるのでしょうね。今後注目していきたい、絡んでいきたい領域です。

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