2011年9月4日日曜日

観察することで見えてくるもの -『江夏の21球』を読んで-

『スローカーブを、もう一球』(山際淳司)に収録されている、『江夏の21球』を読みました。1980年の作品で、ここで紹介するまでもないくらい有名なノンフィクションエッセーです。文庫版でたった24Pのボリュームですが、江夏の日本シリーズ最終戦の登板に的を絞り、多方面への取材を通じて投球シーンのディテールを描写することで、江夏という人物に迫る作品です。

この作品を読もうと思ったのは、たまたま最近読んだ2つの書籍で引用されていたからです。全く毛色の異なる2つの書籍で引用されていることに面白さを感じて読んでみましたが、当たりでした。

『次世代マーケティングリサーチ』(荻原雅之)
『調べる技術・書く技術』(野村進)

こういった、ビジネス書以外の作品に対する書評をする術を持ち合わせていないので、上記2つの書籍のうち、『次世代マーケティングリサーチ』での引用をご紹介することで、雰囲気をお伝えするに留めさせていただきます。『次世代マーケティングリサーチ』では、消費者理解には、数字の把握だけではなく、利用シーンのディテールや心理作用を捉えることが重要だと言う趣旨に絡めて、『江夏の21球』を引用しています。

スポーツノンフィクションの傑作として有名な山際淳司氏の「江夏の21球」は、ビデオの映像を当事者に何度も見せて、その時に何を考えていたか、なぜそのような行動をとったかを思い出させて生まれたものだ。映像からデータに移しただけでは価値を持たない。映像や動画のデータ化で重要なのはその解釈だ。データだけではなく映像そのものが持つ想起力を活用するのはエスノグラフィ的な手法ともいえる。 
興味深いことに、「江夏の21球」を掲載した『Number』編集長(当時)の岡崎満義氏は、1986年に「江夏の経歴を洗って人物クローズアップ的な手法をとるよりも、広島-近鉄の日本シリーズの最終戦で彼が投げた21球を徹底的に”解剖”する方がより江夏の本質に迫れるのではないか」と記している。 
ここにも対象の「理解」に関する示唆が含まれている。消費者の理解もトータルな数字よりもある場面のディテールによって本質が理解できるというのは消費者理解にもあてはまりそうだ。

ちなみにエスノグラフィという手法は、エスノ(ethno-)は「民族」を、グラフィー(-graphy)は「記述」を意味するように、元来は文化人類学や社会学において集団や社会の行動様式を調査することを指します。マーケティングにおいては、アンケート等から統計的に定量分析をする手法と対を成し、消費者の自宅にお邪魔して行動を終日記録するなど、観察やインタビューから定性的に消費者を理解しようという手法です。P&Gなんかが有名ですね。

エスノグラフィーとは

本書でも、江夏の球種は統計的にどうで、ピッチングの組み立てが統計的にどうで、というところからではなく、21球の投球シーンにおける行動や心理描写を通じて、江夏に迫ります。

なんか、面白そうじゃないですか?
Amazonマーケットプレースでは、1円から売られているような感じなので、一度手に取られてもいいかもと思い、ご紹介でした。

なお、ネタばれにご注意ですが、参考資料を記載しておきます。本を読んだ方が当然味わい深いですが、これらで大体中身わかります。

江夏の21球 (Wikipedia)

名作ノンフィクション 「江夏の21球」はこうして生まれた (当時の『Number』編集長の解説)

松岡正剛の千夜千冊『スローカーブを、もう一球』山際淳司 (書評)


あと、引用をさせてもらった『次世代マーケティングリサーチ』はマーケティングを仕事にしている人にとって、非常に示唆に富んだ書籍になっていますので、まだの方は是非一度手に取られることをお勧めいたします。今回引用してみて、また読み直してみたいと思いました。

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