2012年1月9日月曜日

「マーケティングリサーチ」とは何かという素朴な疑問 -『The Future of Online Research: ENgaging and ACtivating Stakeholders』より-

年明けに『マーケティングリサーチでも変化は外縁から起こるか -『Will 2012 Be The End Of The (MR) World As We Know It?』より-』というエントリを書きましたが、何名かの方にTwitter等で拡散いただいたおかげで、比較的多くの方(と言っても知れていますが)に見ていただくことができました。感謝です。

その中で、マーケティングリサーチ(以下、MR)に求められている変化について、「相対的にシュリンクしていくであろう従来の領域で生きていくことを選ぶのか、自ら変化に身をさらすことを選ぶのか、従来MRにとって大きな岐路に差し掛かっているのではないでしょうか」というようなことを書きました。これに関連して、MRの今後のあり方に関して書かれた記事があったので、ご紹介。

・総論

元記事は『The Future of Online Research: ENgaging and ACtivating Stakeholders』というタイトルで、書き出しは、"Market research is in a state of ‘limbo’."(MRは忘却の淵にいる、忘れ去られようとしている、というニュアンス?)という刺激的なもの。主張の背景的には、最近よく見るように、「従来MRの多くはビジネスに十分なインパクトを与えられていない」「データ、分析、テクニック、信頼性、代表性といった”手段”に過剰にフォーカスしすぎ」「MRはコモディティ化してきている」「クライアントも、”より多く・安く”を求めていて、”真のトランスフォーメーションや付加価値”を求めていない」といったことが挙げられています。

恐らく本記事を通じて筆者が言いたいことは、"What is research good for? What is the higher purpose?"((MRは)何のためにやるの?何にいいの?)という言葉に集約されているように思います。これに対する筆者の答えは、タイトルにもあるように"ENgaging and ACtivating Stakeholders"です。"Let’s bring the consumer into the boardroom"(消費者を役員室に持ち込め)という比喩を使っているように、第一のステークホルダー(関係者)である消費者に「参加」してもらい従来よりパワフルで創造的な情報を得る。さらに企業の人間は情報を得るだけでなく自身がその対話に「参加」し、単なる検証や意思決定のためだけにMRを使うのではなく、発見やイマジネーションを得て「活動」に移す。抽象的ではありますが、そういったことが求められる姿であると言っているように理解しました。

・MRに求められる3つの変化

前述のMRの姿("ENgaging and ACtivating Stakeholders")を実現するために、必要な変化として3つのポイントを筆者は挙げています。
  1. Creative intelligence generation
  2. Research as conversation starter
  3. Management responsiveness

内容も踏まえ、わかりやすく表現すると下記のように解釈(≠翻訳)できると思います。
  1. Creative intelligence generation>>聞くだけではなく、働きかけろ。もっとやり方を創造的に。
  2. Research as conversation starter>>リサーチで終わらない。そこからが対話のスタート。
  3. Management responsiveness>>検証や意思決定だけに留まるな。活動につながる気付きの体験を。

以下、簡単に3つのポイントについての主張を整理します。意訳込みですのでご了承を。

1.Creative intelligence generation>>聞くだけではなく、働きかけろ。もっとやり方を創造的に。
これまで、マーケティング情報を得るという目的においては、「サーベイ」ばかりを活用しすぎている。消費者は長く退屈なサーベイを埋めるのに疲れているし、幸いなことに補完的に使える多様な技術や手法が登場してきている。

『Brain Rules』 (2008)に紹介されている脳の働きについての12のルール(下記)にあるように、ゲームの要素を活用し、消費者にタスクを与えたり、実験的な要素を取り入れたりしたリサーチ手法を使うことで、回答者がより生産的に創造的になるため工夫が可能。消費者に対して、聞くだけではなく、働きかけるべき。
(1)‘exercise boosts brain power’ (rule #1) >>エクササイズは脳の力を高める
(2)‘we do not pay attention to boring things’ (rule #4) >>つまらないことには注意を払えない
(3)‘stimulate more of the senses’ (rule #9) >>感覚を刺激しろ
(4)‘vision trumps all other senses’(rule #10) >>視覚は全ての感覚に勝る
(5)‘we are powerful and natural explorers’ (rule #12) >>人はパワフルな生まれつきの冒険者である

2.Research as conversation starter>>リサーチで終わらない。そこからが対話のスタート。
MRでは、単にフォーマルなプレゼンやナレッジマネジメントが全てではなく、インフォーマルな対話も同等にマネジャーの知恵を活性化する有効な手段。リサーチは対話の「始まり」であり、対話こそが消費者のライブのストーリーを伝え、ストーリこそがコンテキストやテーマを生む。「消費者を役員室に持ち込め」という比喩を使っているように、マネジメントの知っていることをマーケットのリアルな現状と突き合せるという意味での衝突は非常に有用であり、例えば、役員を消費者クイズに参加させるというある種の「ゲーミフィケーション」も良い取り組みになりうる。

3.Management responsiveness>>検証や意思決定だけに留まるな。活動につながる気付きの体験を。
情報を元にした計画も、行動を伴わなければ意味がない。行動につながり、最も大きなインパクトと成果を生む気付きは、マネジャー自身が経験し探索した気付き。理想的なリサーチは、リサーチャーとマネジャーの間で何か不確実なことに確証を得るためのものではなく、活動につながる気付きを得られるもの。予期せぬ洞察やアハ体験など、"Simple Unexpected Credible Concrete Emotional Stories Social"="SUCCESS" (Heath & Heath 2007)な気付きをマネジャー自身が得ることが期待される。

・「マーケティングリサーチ」とは何か


こう見ていくと、「マーケティングリサーチ」とは何かという素朴な疑問に突き当たります。上記で書かれたようなことは、果たして、いわゆるMRなのでしょうか。ちなみに"Market Research"を英英辞典でひくと、下記のような意味だと書かれています。もはやこの枠に納まるものではないように思われます。

Market Research:a business activity that involves colecting information about what goods people buy and why they buy them(ロングマン現代アメリカ英語辞典)

ここで思い出されるのは、T型フォード(自動車)のイノベーションと、その陰で変化に適応できず衰退の憂き目にあった馬車の部品(ムチ)メーカーのケースです。有名なケースですのでここに詳述することは控えますが、自分たちの事業を何と定義するか(「馬車の部品を作る」と定義するか、「人々に輸送を提供する手段を提供する」と定義するか)によって大きくその方向性は変わってくるという一つの例です。

思うに、「MRとはこういうもの」という定義がかなり明確に定義されていたからこそ、他の周辺領域との切り分けも明確になり、業界として成長し成り立っていたMR業界。これが今、新しい技術が登場し、顧客のニーズが変化する中で、広義のマーケティングにおける、各領域(広告、PR、リサーチ、カスタマーサービス、サポート等々)の境界が曖昧になり、新しいカテゴライズと定義(その出口としてのリネームも)が必要になってきているように思います。まだまだ一般論の域を出ないものの、この定義如何で前回エントリーに書いたような領域への進出是非の判断も変わってくるのではないでしょうか。

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