2012年1月3日火曜日

選択肢が多いことは善か -『コロンビア白熱教室』より-

人生は選択の連続です。2012年が始まりましたが、皆さんは昨年一年でいったい何回の選択をして、今年何回の選択をすると思いますか?考えたこともない方も多いと思いますが、米国人2000人を対象にしたある調査(後述の番組内で紹介)では、人は一日に平均70回の選択をしている、という結果が出たそうです。ということは、人は年間平均2万5千回以上にも及ぶ選択をしているということになります。

直感的には選択肢が多いことは良いことのように思えます。ただ、皆さんも、買い物をしていてあまりの選択肢の多さに選ぶのが面倒になって購入を先送り(あるいは中止)にしたり、購入後になんとなく他の選択肢のことが頭に残ってイマイチ満足度が高くない状態になったり、そのような経験があるのではないでしょうか。

昨年から、サンデル教授の『ハーバード白熱教室』のコロンビア大学ビジネススクール版である『コロンビア白熱教室』がNHKで放映されており、著書『選択の科学』で有名なシーナ・アイエンガー教授の「選択」についての授業が展開されています。溜まっていた録画を正月に見ていたのですが、その中で、この「選択肢の多さ」について取り上げられていたので、メモします。

■選択肢が多いことは必ずしも歓迎されない

選択肢があまりに少ない(ない)ことは当然ながら「選択の自由」を奪われるわけなので、不満の種になります。一方で、選択肢が多すぎることも同じく不満の種になるようです。(記憶があやふやながら、確か)ある実験で下記のような傾向が見てとれたそうです。
  • ある上司が部下にほとんど選択肢を与えなかった場合、その部下は上司を有能であるとは認めるが独裁的だと評価する。
  • 一方で、別の上司が部下に非常に多くの選択肢を与えた場合、その部下は上司は寛大でフレンドリーであると評価するが能力は低いと評価する。

なんとなくわかる気がしますね。
また、他にも冒頭に挙げたような先送りや満足度の低下ということも経験的に感じます。このことをよく表しているのが、教授が行ったジャムの実験です。食料品店の入り口付近の試食コーナーに24種類のジャムと6種類のジャムを並べた場合を比較すると、試食に客が立ち寄る率は24種類の方が多かったが、売り上げは6種類のジャムしかない(品揃えが少ない)方が6倍もあったと言います。

■選択肢が多いと起こりがちなマイナス面


では選択肢が多いことは何を引き起こすのか。教授は選択肢が多いと起こりがちなマイナス面として、下記の3つを挙げます。

・現状を維持する傾向がある
考えるの面倒くさいし今回はいつもと一緒でいいや、ということありますよね。これは、決断を先送りする傾向とも言い換えられそうです。

・利益に相反する選択をする傾向がある
こんなに選択肢が多いとよくわからんし中庸で、ということありますね。違いを見分けるあるいは優劣を付けることが自身ではできず、周りに言われたからとか、自分をよく見せようとか、外部圧力に左右されるということもあるでしょう。

・選択の結果に満足しない
もっと探せば他にもっといいものあったかも、あの色・味のほうが良かったかな、ということでしょうね。これはわかりやすいです。

■選択肢が多すぎることによるマイナスが起こる原因

選択肢が多すぎることによるマイナスはどのようなことが原因となって起きるのか。教授の挙げるポイントは下記の3つです。


・知覚判断と記憶力の限界
何事も、人にはキャパというものがあります。ある一定以上選択肢が多いということは単純に人の情報処理能力の限界を超えるということです。短期記憶という短期間(約20秒間)保持される記憶では、「マジカルナンバー7±2」といって7±2の情報しか保持できないという説もありますね。

・わずかな違いを見分けられない
選択肢の間に明確な違いや優劣がないと、人は自身の選択基準を尺度にして、選択肢の評価をできないということかと思います。番組では、教授が行った、微妙な色の違いのマニュキアを見分けられるのか、という実験が紹介されていました。

・個性的な選択をしようとする
ここでも教授のネクタイの実験例が紹介されていました。普通の無地のネクタイ、中間的なペイズリー柄のネクタイ、突飛なヒョウ柄のネクタイの中で一つを選ばせると、中間的なものを選ぶ人が非常に多いというものです。あまりに派手なものは嫌だけど平凡すぎるものを選ぶ自分ってどうなのか、という心情だそうで。選択は周りへのメッセージでもあり、個性的な選択をしようとするプレッシャーがかかるそうです。

■選択肢が多すぎることによるマイナスを軽減する対処法

では目の前に多くの選択肢が並べられた時に、どのように対処すればいいのか。ここもまた3つのポイントが挙げられていました。
ベンジャミン・フランクリンの言うように「どちらを選べばよいかは教えることはできないが、どうやって選べばよいかは教えられる」というわけです。

・省く
まずは不要なもの、重要度の低いものを省く。番組では、ある消費財メーカーの品目削減による売上増の例が紹介されていました。
少し脱線しますが、省くという文脈で紹介されていた「オッカムの剃刀」。私も始めて聞いたのですが、「ある事柄を説明するためには、必要以上に多くの実体を仮定するべきでない(ある事実を同様に説明できるのであれば仮説の数は少ないほうが良い)」という指針のことだそうです。ちなみに「剃刀」という言葉は、説明に不要な存在を切り落とすことを比喩だそう。

・分類する
傾向や共通項によって分類する。これをするとまずはカテゴリごとの取捨選択を行うことができ、選択肢の絞込みがしやすくなります。

・複雑さを整理する
番組では、自動車のオプションの実験が紹介されていました。自動車購入にあたってシート、車体カラー等のオプションが多くある中で、選択肢の少ないオプション項目から選択を始めた方が、選択肢の多いオプション項目から選択を始めるよりも、満足度が高かった、という結果。つまり選択肢そのものだけではなく、順番の工夫や階層での整理等、「プロセス」によっても複雑さを解消することができるということかと。

今回の授業で話されていたことは、どちらかというと「人(ビジネスパーソン)としての日々の意思決定・選択」についてでした。パレートの法則(いわゆる2:8の法則)を人の日々の活動に当てはめてみると、「日常生活の成果の8割は、2割の決定や行ったことで決まる」と言えるのかも知れません。教授は生徒がその日の一日に行った選択を全てリスト化させ、その中で人に任せてもよい選択、あえて選択しなくてもよかった選択、ベストな選択をしたが満足度は高くない選択、自分の価値を高めていない選択を分類し、省かせます。人が思っている以上に、本当に自身が選択をすべき事柄は限られているということが見えてきていて面白かったです。

■教訓 選択肢を多く提示しすぎていないか

世の中で全てでパレートの法則が成り立つかというとそうではなく、ネットによるロングテール効果(物理的スペースが不要なため多品種をラインナップでき、少ししか売れないが長い尻尾のように多品目に渡って売れ続ける現象)とか、リアル店舗での客寄せ効果とか、選択肢が多いことによる効用もあるように思います。

ただ、一度マーケティングにおいて顧客に提示している選択肢の多さを見直してみる価値はあるのではないかと思います。これは単純に製品・サービスの種類やスペックをシンプルにすればよいということだけではありません。それらマーケティングプランを検討・検証する際のインプットとなる、マーケティングリサーチにおける質問の選択肢から見直す必要があるかもしれません。例えば、購買要因やニーズをアンケートで聞くにしても、あれもこれもと2桁の選択肢を用意してしまっていることはないか。ここで仮に回答者(=消費者、顧客)が正確に本音で選択をできなかった場合に、そのデータは実態とは異なる結果を表してしまう、つまり誤った結果をベースにプランニングや検証をしてしまうというということに繋がります。

「選択肢の多さ」を「選択の自由」と勘違いしがちという点は注意しなければなりません。マーケティングにおいても、消選択肢が多いということは、消費者に不自由さをもたらすこともあるということ、肝に銘じたいと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿