2012年1月16日月曜日

医療におけるテクノロジーの可能性 2012年の展望 -『6 Big HealthTech Ideas That Will Change Medicine In 2012』より-

今回は個人的に関心のある領域、医療におけるテクノロジーの展望について。『6 Big HealthTech Ideas That Will Change Medicine In 2012』に紹介されている6つのテクノロジー(およびその応用例)を取り上げますが、医療以外で聞かれるテクノロジーが医療においても重要な手段として取り上げられてきているということがわかります。
※元記事は本家Tech Curnchのものですが、Japanの方で(恐らく)日本語化されていないようですのでメモとして

以前に『マーケティング・リサーチにおけるハイプ・サイクル -技術が広げる可能性-』というエントリーを書きましたが、その中で紹介したハイプ・サイクル(Hype Cycle)に挙げられている技術領域も幾つか登場していますね。

さて、以下にその6つのテクノロジー(およびその応用例)を抜粋・要約します。

・Artificial Intelligence
人工知能と言えば、最近ではAppleのSiriやIBMのワトソンが有名ですが、人工知能もしくはパターン認識といった技術を活用することで、医療においても診断や意思決定をサポートする手段(医療従事者、患者に対して)になってくるだろうということです。例えば、子宮がんの早期検査、乳房X線診察、皮膚科診断といった、ある程度方法論がパターン化される領域においてこの動きが加速しそうとのこと。いわゆるプライマリーケア(初期診療)を担当する内科医の多くはこの診断アプリをスマートフォンに入れるようになり、専門外の診断でも簡単なものは自身で行い専門医への紹介も減少する、というような未来もあり得るかもとあります。

ここで紹介されているのは、「Skin Scan」というアプリ。皮膚(外傷)を撮影しクラウドに上げると皮膚がんの可能性があるか否か診断結果が得られ、可能性がありより詳細な診察が必要な場合は近隣の専門医を紹介してくれるというものだそうです。

・Big Data
消費者向けビジネスや支援するITベンダー・調査会社の界隈では既に盛り上がりを見せているビッグデータ。個人情報の関係やアウトカムをなかなか公表できない業界規制の中で情報がうまく活用されていない側面もありますが、実は医療は一大情報産業です。生命を扱う産業として、情報に意味付けを行い、アクションにつながる情報に加工し、それを少しでも早く安くということの重要性は、他の産業以上に求められるところです。

わかりやすい例としてはゲノム解析。10年前はヒトのゲノム配列を全て明らかにするのに10億ドル以上かかっていたところが、現在ではムーアの法則もびっくりの5,000ドル以下でやれてしまうとのこと。一般の人がゲノム解析を依頼できる会社としては「23andMe」が有名ですが、ここでは昨年1万人のゲノム配列を明らかにしたが、来年には10万人(近いうちに100万人)のゲノム配列を明らかにしていく予定だとのことです。これは予防という観点で非常に良い動きです。

・3D Printing

3Dプリント。3Dプリントについては、The Economistにも特集記事がされており、主にモノづくり(トンネル等の大型造形含む)における3Dでのモック(模型)作成に活躍する技術です。医療における一つの利用方法が義足。もし片方の足がまだ健在で、3Dプリントが利用できれば、サイズやRの出し方、肌の質感を自分の足をベースに義足として再現できるかもしれないということです。また、3Dプリントに期待されているのがiPS細胞やES細胞等を使った再生医療への援用。ヒトの細胞を単に再生するだけではなく(それだけでも画期的ですが)、元の人体にあった臓器の形を3Dプリントでシミュレーションした上で、原形に忠実に再生できるかもしれないようです(サイエンティフィックに正しい表現になっているか自信がありませんが)。

・Social Health Network
SNSのヘルスケアへの適用。例えば、トラッキングという効用。つながった友達からの賞賛(応援?)と適切なピアプレッシャーによって健康状態を維持できたり、ダイエットが継続したりすると言います。また、病気の予測、という点も一つの可能性としてあるようです。一説には、友人をより多く持っている人は、人よりも早くインフルエンザにかかると言い、SNSのソーシャルグラフ情報から自身がいつ頃インフルエンザにかかる可能性が高いかを予測することで、適切な回避ができるようになるらしいです。

より実用的なところでは、実際に何かしらの疾患にかかっている患者同士がつながり、情報を共有しともに治癒に向けて力を合わせるというサイトも登場しています。「Patients Like Me」「Cure Together」が有名どころです。

またより臨床に近いところでは、「Genomera」というクラウドソーシングを活用し低コストでWebベースの研究を行えるサイトや、「Practice Fusion」という「このような遺伝子を持った患者が、このような薬を飲んだら、このような結果になった」といった情報を参照できる電子医療データベースサイト等があるようです。

・Communication With Doctors
これは可能性について言われ続けて久しいような気もしますが、SkypeやFace Timeのような新しいコミュニケーションプラットフォームを活用した患者と医師のコミュニケーション(遠隔での診察等)です。ここは技術的な問題というよりも、むしろ制度・規制や保険償還の問題の方が大きい領域ですが、そろそろ実用の段階に進むかもということです。ただ、単なるしゃっくりや吹き出物で電話される医師もたまったものではないので、医師がこの方法を活用するインセンティブや保険償還の仕組み等を整備する必要があるようです。

・Mobile
スマートフォンに代表されるモバイルには、持ち主のヘルスケアデータを記録したり、医療上の指標をトラッキングする機器としての新しい可能性があります。例えば、心臓を常にモニタリングしクラウドにデータを蓄積し主治医が適宜それを見られる仕掛け、携帯電話をインスタントのオトスコープ(耳鏡)、あるいは血糖測定器にする工夫等があるようです。

ただこういった新しいイノベーションは、先進国(ここではUS)では規制の壁がありすんなりとお墨付きを得られる状況ではなく、むしろインドやアフリカといったまだ規制が比較的ゆるく、医師が少なく切実なニーズのあるオフショアで素早く立ち上がるのではないかということです。


・全般を通じて
一般的な技術のハイプ・サイクル(Hype Cycle)に比べると、医療領域における展開は少し遅めなのでしょうかね。正確に言うと、臨床で応用される技術は最先端を行っているのですが、医療の周辺領域(予防、アフターケア、患者視点での広義のケア等)においてはまだまだというところでしょうか。本来あるべきは、医療という領域は他のどの産業よりも最先端のテクノロジーが応用されるべき領域だと思います。元記事は“In the future we might not prescribe drugs all the time, we might prescribe apps.”という書き出しで始まっていますが、様々な技術が日常のヘルスケアに持ち込まれる未来はどれくらい近い未来のことなのでしょうか。

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