2012年1月5日木曜日

マーケティングリサーチでも変化は外縁から起こるか -『Will 2012 Be The End Of The (MR) World As We Know It?』より-

昨年は、マーケティングリサーチ(以下、MR)における今後のトレンドの展望や従来型MRに求められる変化について書かれたブログを引用して、下記のようなエントリーを幾つか書きました。海外のオピニオンではこういう内容が最近多いですね。

マーケティングリサーチ:12の新しい潮流 -『WHAT’S NEXT IN ONLINE AND SOCIAL MEDIA RESEARCH?』-
『従来型サーベイは消えるのか -『No Surveys in 18 years!』より-』
『ゆく年/くる年のマーケティングリサーチは? -『Research in 2012: new methods, stronger structures and less PowerPoint』より-』

昨年末に読んだ『Will 2012 Be The End Of The (MR) World As We Know It?』というブログも同じような論調。「2012年は皆さんよくご存知のMRの終焉?」てな刺激的なタイトルですが、内容的には2012年のトレンド・方向性について包括的に書かれた記事です。

まずは、以下にざっと内容の要約を。

・MR業界に起こりうる10の変化
大きく10個のMRに関するトレンドや変化について書かれています。
(日本語部分は意訳もあり。正確には元記事をご参照ください。)

1. Surveys get smart : 常時カスタマーインサイトが統合できるサーベイ手法へ
サーベイの主軸が、都度個別に企画するアドホック調査ではなく、ソーシャルメディアやCRM、POSといった顧客データを統合したダイナミックなトラッキングシステムに変化。質問内容はそれまでのトラッキング内容(過去の発言や行動)によって適切に絞り込まれ、多くのタッチポイントを通じて常時顧客にはアプローチができるため、都度の質問数も2,3に絞り込まれる。仕掛けとしてのゲーム的要素や企業からのリワードも導入が進む。

2. Qualitative plays connect the dots : 真の顧客理解につながる定性の復権
本質的な顧客理解への企業の需要と、コミュニティ/バーチャルエスノグラフィー/ビッグデータといった手法の進化によって、ストーリーテリング、異なった種類のデータを一つに繋げる力、社会科学を人の行動理解に繋げる力といった、定性情報分析のスキルセットへの需要が大きくなりつつある。ただし、新しいツール・手法の学習とこれまでより大きなスケールでの洞察が求められる。

3. Once more, with feeling : 人の非合理性を汲み取る手法の台頭
生物測定学(バイオメトリックス)、神経科学、表情認識、認識モデルといった、人の非合理的な意思決定を理解する技術が進化し、行動経済学を調査に組み込むことが普通のことに。従来のアンケート等で取れる「語られる」意見や嗜好の役割はなくならないが、ビッグデータ等の行動や考えをダイレクトに得られる手段の補完的扱いでしかなくなる。

4. Google gobbles up data collection : MRバリューチェーンの再構築
パネル屋、フィールドワーク屋、データ屋、分析屋、コンサル屋などなど、分業が比較的できていた従来のMR業界のバリューチェーン。ここにGoogle等のITのメガプレイヤーが参入し、巨大なデータを活用し顧客インサイトを創出するために買収と戦略的投資を展開している。既存のプレイヤーは、そのケイパビリティの一部となるか、パートナーシップを結ぶか、もしくはそのエコシステムの中で独自のポジショニングを築くか、新しい競争ルールの中での自社の位置付けの模索が求められる。

5. Text Analytics reads between the lines : テキスト分析の進化
データ処理能力向上、分析プロトコルの進化、巨大な発話データへのアクセスを背景に、テキスト分析が単にちょっと良くなったというレベルではなく、オンライン調査やビッグデータ分析における"Game Changer"になりうる。単にワードの関係性やランキングを出すだけでなく、複数のアルゴリズムを用い感情面も組み入れた多層的な解析を行うことができるようになるとか。コミュニティ、グルイン、ソーシャルメディア、CRMデータ等々のほぼ全ての側面に組み込まれていく重要な手法になりうる。

6. Brands put their money where their mouth is : 企業の期待すること(=予算配分)の変化
企業は単なる顧客理解だけではなく、顧客とのエンゲージメントおよび関係性の転換を実現するために調査予算をシフトしており、「データ収集と分析」のみに終始する事業者ではなく、MR業界以外の新しいプレイヤー(Wayin, IntoNow, CrowdTap, Tiipz, Survey Monkey等)との協働を始めている。この新規参入者のもたらす新しいモデルは高いROIを示しており、既存事業者に求められる適応のペースは非常に速い。また、この新規参入者の企業評価額は非常に高くなることが予想され、これまでのような買収による適応は難しく、自らのクリエイティビティ、イノベーション、実験、コラボレーションを取り入れる組織文化の転換が求められる。

7. Going glocal : 一元的なグローバル調査が格段に早く・安く
ソーシャルメディアとモバイルテクノロジーによって、これまでグローバル調査に必要とされてきた各国個別のプロジェクトの実施(各国でコーディネート企業や適した調査手法が異なったため)が不要になり、グローバルなスコープのもとでローカルな内容にフォーカスした調査が一元的に実施可能に。マクロ/ミクロのグローバル調査を格段に早く安く実施できるように。

8. Big Data = big bucks : ビッグデータは一つの産業に
これは言わずと知れたビッグデータ。「ビジネスインテリジェンス」業界として、既にグローバルに3000億ドル(約23兆円)規模(!)の産業として成立。これは2012年も伸びる見込み。
ちなみにビッグデータについては私も以前にエントリーを書いていますので、ご参照ください。

ビッグ・データの可能性 -『科学の「第4のパラダイム」』(HBR11月号)より-
ビッグ・データのもたらす変化 -マッキンゼーの論文より-

9. Mobile, mobile, mobile : モバイルが最重要な技術の中心に
誰がなんと言おうとモバイル!!、というニュアンスでしょうか。これなくして2012年のMRは語れませんよ的な書きっぷり。

10. Research is redefined : 要はMRの再定義が必要
上記の総括的な意味合いとして、クライアントのニーズ、ビジネスの現実、社会的トレンド、テクノロジー、ビジネスモデル、競合、全てが新しいものになってきている中で、MRには狭い定義、保守的なポジショニングからの脱却が求められているという締め。


・変化はどこから起こるのか
次に、それぞれのトレンドや変化について、核となるであろうプレイヤーを記事を参考にしつつ勝手に考えてみます。

1. Surveys get smart : 常時カスタマーインサイトが統合できるサーベイ手法へ
ソーシャルメディア解析に通じた企業(代理店、メディアコンサル等)、従来からCRM・POSといった常時顧客データを扱う企業(コールセンター事業者も?)、あるいは仕掛け面からソーシャルゲーム会社。

2. Qualitative plays connect the dots : 真の顧客理解につながる定性の復権
従来の定性調査会社というよりも、アカデミックなバックグラウンド(社会学系?)とITのインプリを兼ね備えたスタートアップ

3. Once more, with feeling : 人の非合理性を汲み取る手法の台頭

これもアカデミックなバックグラウンド(こっちは経済学系、もしくは最先端科学系?)とITのインプリを兼ね備えたスタートアップ。

4. Google gobbles up data collection : MRバリューチェーンの再構築
Google等のITのメガプレイヤー

5. Text Analytics reads between the lines : テキスト分析の進化
テキストマイニングに特化した企業、大量データを扱うことに長けた企業(データマイニング、データウェアハウス等)、コールセンター事業者等の顧客定性情報を従来から扱う企業

6. Brands put their money where their mouth is : 企業の期待すること(=予算配分)の変化
MR業界以外の新しいプレイヤー全般(下記は記事内で紹介されていた企業)

Wayin:クイックリサーチができるSNS
IntoNow:見ているTV番組にチェックインし共有できるサービス
CrowdTap:企業が消費者とつながりサーベイやサンプリングができるクラウドソーシングサイト
Tiipz:ソーシャルメディアを通じたリサーチサービス
Survey Monkey:DIYリサーチサービス

7. Going glocal : 一元的なグローバル調査が格段に早く・安く
モバイルキャリア、巨大な(潜在的な)パネルを持つコミュニケーションインフラ企業(Facebook等のソーシャルメディア)

8. Big Data = big bucks : ビッグデータは一つの産業に
IBM・オラクルといったITのメガプレイヤー、大量データを扱うことに長けた企業(データマイニング、データウェアハウス等)

9. Mobile, mobile, mobile : モバイルが最重要な技術の中心に
モバイルキャリア、コミュニケーションインフラ企業(Facebook等のソーシャルメディア)

10. Research is redefined : 要はMRの再定義が必要
割愛

こう見ると、それぞれの変化を担えそうな企業は既存の業界外にいるように思えます。私自身ここまで明確にリストアップしてみたことはなかったのですが、こう見ると非常にバラエティ豊かに様々な方面から新しい勢力が出てきそうであることがわかります。
裏を返すと現在の中心プレイヤーである「従来MRへの変化の圧力」(終焉は言い過ぎ?)と言えるのではないでしょうか。


・既存のMR事業者の立ち位置は
従来MRなりその事業者には変化の圧力がかかっている、一方で、その役割は小さくなり脇役になれど完全には消えてなくならないことも確かなことだと思います。その時、相対的にシュリンクしていくであろう従来の領域で生きていくことを選ぶのか、自ら変化に身をさらすことを選ぶのか、従来MRにとって大きな岐路に差し掛かっているのではないでしょうか。

上述のような新規参入者のイノベーションが技術・方法論ドリブンだすると、MR事業者にはクライアント(顧客)ドリブンのイノベーションに一日の長があるはずです。また、それこそが自分たちの売り物でもあるはず。ただ同時に、以前のエントリー(その①その②)に書いたDIYリサーチ(Survey Monkey等)の件のように、クライアント企業内の人材・ナレッジの成熟に伴い、なぜインハウス(クライアント社内)のリサーチャーではなく外部事業者のリサーチャーである必要があるのかという問いが、MR事業者には突きつけられています。つまり、MR事業者はイノベーションのきっかけとなる技術/顧客の両方向からの板ばさみに合っている、ということが偽りのない現状であるように思えます。

のんびりしていると、DIYリサーチのように、うまくクライアントニーズをとらまえた新規参入者とクライアントが直接結びつく形が拡大しそうです。医者の不養生にならないよう、自分たちがいつもクライアントに対して提言している、マーケットインサイトをうまく活用した自分たちのバリューの見極めを行うべき時なのではないかと思います。

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