2011年12月12日月曜日

BtoBにおける「DIY(Do It Yourself)」の事例 -DIYリサーチに考える-

ファストフード、日曜大工、ガソリンスタンド・・・。様々な業種やサービスで「DIY(Do It Yourself)」「セルフ」といったコンセプトは当たり前のこととして広く浸透しています。

このDIYの考え方は、最初はBtoC(消費者向け事業)で広く普及したように思いますが、昨今ではBtoB(事業者向け事業)の世界にもその波は広がってきているように思います。BtoBにおけるDIYは、言い換えると「内製化」と言えるかもしれません。

内製化の要因は幾つかあるかとは思いますが、大きくは下記のようなところでしょうか。
  • 技術や手法の進歩による作業の一般化
  • 情報の非対称性の解消による外部プロの相対的価値低下
  • 企業内スタッフの技術・知識の習熟(技術・知識のコモディティ化)
  • 人材の流動化による外部プロ人材の流入
  • コスト低減の圧力

私もかつて生息していたコンサルティング業界はその典型のようなところがありまして、プロジェクトの短期化や単価の下落、モジュールの切り売り(必要なところだけつまみ食いされる)といった現象が起こっていました。

さて、今回取り上げるのは、そんなDIYの流れがマーケティングの世界にも押し寄せてきているという話です。ここではマーケティング・リサーチ(以下、MR)を例に取り上げます。

通常のMRでは、リサーチ会社がクライアントへのヒアリングを通じて課題や仮説を整理、その上で質問を作り適切な対象者を集めてアンケートを実施、回答が集まればデータを様々な角度から分析し当初仮説に照らした検証と示唆を導出してレポーティングを行う、というのが、一般的なビジネスプロセスかと思います。

「DIYリサーチ」とは、このプロセスの多くをクライアント(企業)が自前でできるようにする仕掛けでして、その多くはWebサービスを通じて上記のようなこれまで外部プロが行っていた作業を自前で行えるようになっています。国内外の代表的なDIYリサーチサービスは下記のようなところでしょうか。

Survey Monkey(海外のデファクトサービス)
Fastask(日本で最近ジャストシステムがリリースしたサービス)

最近下記のような記事を読んだのですが、DIYリサーチには、リサーチ業界でも肯定派/否定派両方の意見が存在するようです。多分に、リサーチ会社にとっての”仕事”が奪われるという懸念から来る否定的意見もあるように思われますが。。

■下記肯定派/否定派記事が紹介されていた元記事
Stop Calling It "DIY Research"

■肯定的記事
Why DIY marketing research is good for our industry
Why DIY Research is Good for Everyone

■否定的記事
5 Dangers of DIY Research
D-I-Y Market Research: Worse than no research at all?


肯定派/否定派両方のポイントを紹介したいところですが、長くなってしまいそうなので、また機会を見て整理をできればと思います。

個人的にはメリット・デメリットを踏まえつつ、どんどんDIYが進み、外部プロはより付加価値の高い作業や別軸の価値の創出を行えばいいと思います。この既存価値のコモディティ化と新機軸の価値創出はイノベーションの一つのパターンです。この「DIY化」自体も一つのイノベーションであると思いますし、それによって今後起こるであろう外部プロによる新たな価値創出も一つのイノベーションになることでしょう。

余計なお世話かもしれませんが、意固地に新しいサービスの不完全さと外部プロとしての価値を主張していても、技術や知識のコモディティ化は避けられない中で、同じことをしていては価格低下圧力が増すのみです。

上記の『Stop Calling It "DIY Research"』では、DIYリサーチを既存のMRとまったく異なるタイプのリサーチとして捉えるのではなく、(意味ある)ツールの一つとして捉えるべきであると書かれています。食事を考えてみればわかるように、人は一日のうちに、昼にマクドナルドや吉野家でランチをしたと思えば、夜は高級なレストランでディナーをするわけです。ケースバイケースで複数の選択肢から適切なものを選べるということで非常にポジティブなことだと思います。

さて、このDIY化のイノベーションはどこから起こってくる(起こっている)のでしょうか。その当時を実体験として知りませんが、かつてMRの中心が郵送や訪問からオンラインに移った時にも、その変化の中心には既存の事業者ではなく新しい事業者がいたと言います。上記のジャストシステムなんかはリサーチ会社でもなんでもないわけで、このような「外縁」からの変化ということが今回も繰り返されるのかもしれません。


【追記(2012.12.12)】
Survey MonkeyとFastaskについて、同系統のサービスのようにご紹介していましたが、お二方からTwitterで下記のようなコメントを頂戴しました。同じDIYリサーチながら、少し(だいぶ?)性質が異なるようです。

@Experidgeさんより。
@sh0tk Survey Monkeyと、Fastask(日本で最近ジャストシステムがリリースしたサービス)との違い:前者は外部或いは手持ちの対象者のメールアドレスを自由に登録して自前の調査が可能。後者は提携ネット調査会社のパネルのみ利用可とのこと。パネル会社も儲かる仕組み。

@madarameさんより。
Survey Monkeyはシステム貸し、Fastaskは通常のネットリサーチを喰っていく流れでしょうかね。RT @sh0tk: ブログ書いた。>BtoBにおける「DIY(Do It Yourself)」の事例 -DIYリサーチに考える-

私なりの理解では、前者は顧客とのコミュニケーションに軸足を置いたサービス、後者は純然たるリサーチサービスの一種。前者はある程度住み分けが効くし、後者もパネルを持つリサーチ会社とはWin-Win。実は、両者ともリサーチ会社というよりも、「リサーチャー」の仕事を奪うのかもしれません。

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