2011年12月27日火曜日

「短期記憶」をとらまえることでマーケティングは変わる -スーパーでの買い物を例にした思考実験-

最近知ったのですが、記憶には、長い期間、量もほぼ無限にストックできる「長期記憶」と、短い期間に限定され、量も有限という「短期記憶」の2つがあるそうです。感覚的にも確かにそうだなと思うところはありますが、短期記憶の量的な限界は7±2くらいだそうで、これを「マジカル・ナンバー7±2」というらしいです。今回はマーケティングにおける短期記憶を拾うことの意味について考えてみたいと思います。

・消費行動における記憶とは

消費行動における長期記憶とは、ブランドや製品に対する認知・イメージ、継続的に利用している製品・サービスの選択理由、消費者の価値観、そういった時間が経ってもあまり変化のない普遍的なものであり、ある程度漠とした抽象的な印象が主となります。

一方で、消費行動における短期記憶とは、何か商品を手に取った瞬間の選択理由、広告・宣伝を目にしたときの印象、商品を使用した直後の感覚(使用感)といった、時間が経つと記憶が薄れる、あるいはその時のシチュエーションや気分によって内容が左右される、非常に具体的で刹那的な印象が主となります。

・これまで「短期記憶」を拾うことは難しかった

当然ながら、マーケティングにおいて、消費者から短期記憶についてフィードバックを得ることは、非常に重要なインプットになり得ます。これまで、この短期記憶について企業がうまく消費者からフィードバックを得る方法は限定的なものであったように思います。

世の中にある定量調査・定性調査の多くは、記憶のうちの長期記憶を対象にしたものと言われます。確かに、商品を手に取った瞬間の選択理由、広告・宣伝を目にしたときの印象といったことを事後的にアンケートやヒアリングで聞くことはできますが、それが本当に「その時」の消費者の気持ちや印象であったかというと甚だ怪しいものです。また、調査会社(あるいは調査会社)を介したアンケートやヒアリングでは、調査側の解釈や限定あるいは誘導、消費者側の配慮(多分こう答えて欲しいんだろうな)がどうしても入ります。

厳密に短期記憶を取得するという意味では、POSデータ、店員がその場で客から受ける直接的なフィードバック、客が主体的に企業に訴えてくる感謝の声やクレーム、といったところが限界だったのではないでしょうか。

・スーパーでの買い物を例に「短期記憶」の重要性を考えてみる


スーパーでの買い物を例にして、今企業が把握できていることと把握できていないことを考えてみます。(私は業界に詳しくないので、もしかしたらこのうちの一部は既に把握できているのかもしれません)

■今把握できていること
  • 誰が買ったか(男女・年代等の限定的な属性のみ) ※会員カード等を持っている場合はその限りではない
  • 何を買ったか
  • いつ・どこで買ったか
  • なぜその商品を買ったか(曖昧な記憶レベル)

■今把握できていないこと
  • 誰が買ったか(属性を超えた詳細なプロファイル)
  • どういう状況で買ったか(週1回の定期的な買い物?仕事帰り?醤油を切らして?友人との家飲みで?)
  • なぜその商品を買ったか
  • 何と比較したか、なぜその商品に決めたか
  • 迷ったけど買わなかったものは何か、なぜか
  • どのような順にカゴに入れたか
  • 陳列、ポップ、売り場配置、照明、店員等への印象・評価 等々

こう考えると、マーケティングにおいて非常に重要な項目が、短期記憶で構成されており、いまだに十分に把握しきれていないことがわかります。

・消費者の「短期記憶」(あるいは行動そのもの)を拾う手段の出現

技術の進化によって、短期記憶を拾う手段が幾つか出てきています。消費者本人にアンケート等で聞き出すことで記憶を拾うだけではなく、よりファクトベースに消費者の行動そのものを追える技術も多いように思います。

・モバイル
スマートフォンに代表されるように、どこでもオンラインになる環境が整ったことで、リアルタイムに消費者に質問を投げかけたりフィードバックをもらったりすることができるように。購買や広告への接触の直後に(ほぼリアルタイムに)アンケートすることも可能。

・ソーシャルメディア(Twitter等)
消費者が何かを購入したり見たりしたその場で意見や感想を主体的に表現することができるように。一方通行ではなく、消費者間や消費者・企業間の意見や感想のやり取りも可能。

・生活動線の見える化技術(GPS、加速度センサー等)
消費者の位置情報や動くスピード(要は、どんな交通手段で動いているか)を把握できるので、生活・消費の動線をリアルタイムに見える化できる。

・消費瞬間の行動認識技術(顔認識、アイトラッキング、モーションセンサー等)
消費者の棚を見る目の動きや、商品を手に取るときの動き(躊躇してるとか、棚戻すとか)がわかるように。(知りませんが)顔認識とサーモセンサーとか絡めれば感情とかもわかるのかな。

・商品の動きを追う技術(RFID等)

棚から取られた、カゴに入れられた、一度手に取られまた棚に戻された等の商品の動きを追うことが可能に。これは直接的に消費者の短期記憶・行動を追うものではないですが、消費者の属性と紐付けることでそれを補うことが可能。

・こんなことができたらマーケティングは進化する(かも)

上述したような技術たちを活用すれば、今まで把握できなかった消費者の行動や思考のパターンが見えてくるのではないでしょうか。稚拙なアイデアではありますが、スーパーを例にとっても、下記のようなことも夢ではない(と言うか既にやられている?)ですね。

  • GPSや加速度センサーを利用し、店に来るまでの動線や立ち寄りポイント、交通手段等から買い物の目的や経緯を把握
  • 棚やPOPにQRコードがあり、読み込むとモバイルアンケートにつながる。店での陳列や内装、キャンペーン等の感想や評価をもらう
  • カートにGPSをつけ、動線や買い物パターンを把握
  • POSとアンケートを連動し、買い物直後に数点の商品について購買要因を把握
  • 顔認識・アイトラッキングで商品選択に迷った過程や棚への視点の持っていき方を把握
  • 商品をカートに入れる際にセンサーとRFIDで商品の判別を行い、レジ待ち中にでもアンケートで数点の商品について購買理由等を確認
  • 事前の買い物メモ(アプリ?)と実際の購買商品の差異から衝動買いの構造を把握 
  • 3つくらいの項目について良かった/悪かったを答えるための評価ボタンをレジに設置
  • 商品使用中/使用後に答えられる数問のモバイルアンケート、Twitter等での感想の投稿 等々

他にもやり方は幾つもあると思います。当然少なからぬ投資が伴うことばかりなので、どのような出口(打ち手、成果)がありうるのかを十分に検討すべきかとは思いますが、このように短期記憶(あるいは行動)をとらまえることができれば、大きくマーケティングは変わるのではないかと思います。こういう実験的なことやってみたいな~。

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