2011年12月17日土曜日

「DIY(Do It Yourself)」への賛否 -DIYリサーチに考える(追補)-

前回のエントリ(BtoBにおける「DIY(Do It Yourself)」の事例 -DIYリサーチに考える-)で、マーケティング・リサーチ(以下、MR)におけるDIYの流れを取り上げました。

前回のエントリから今日までの間に、DIYリサーチサービス提供企業のSurveyMonkeyによる競合買収のニュース(SurveyMonkey Acquires MarketTools’ Zoomerang, ZoomPanel, and TrueSample via TPG Capital)もあり、海外では早くも次の展開を見せているようです。

前回は詳細に立ち入りませんでしたが、このDIYリサーチには直感的にも功と罪があるということをお感じになられる方も多いのではないかと思います。リサーチ業界でも肯定派/否定派両方の意見が存在するようです。

ここでは、前回も紹介した下記のような出典をもとに、両者の言い分を整理してみたいと思います。

■下記出典が紹介されていた記事
Stop Calling It "DIY Research"

■肯定的記事
Why DIY marketing research is good for our industry
Why DIY Research is Good for Everyone

■否定的記事
5 Dangers of DIY Research
D-I-Y Market Research: Worse than no research at all?


肯定派/否定派の言い分

まずは、肯定派の言い分。
  • 顧客の声を集めるための、手段・選択肢が増える
  • 早まる事業展開に対応すべく、すばやく(今すぐ)データを入手できる
  • ローコストで顧客の声を集めることができる
  • (敷居が低くなり)よりデータ/ファクト・ドリブンの意思決定が根付く
  • マーケティング・リサーチ(以下、MR)がリサーチ部門の専売特許ではなくなり、全社的にカスタマーインサイトの重要性が根付く
  • 結果として、より本格的なリサーチにおいて、リサーチ業界への還流が期待できる
  • 「プロ」よりも簡潔でシンプルな調査が可能(プロが実施する調査の(不必要なほどの)複雑化)

次に、否定派の言い分。
  • サンプル(回答者群)が限定的であり、正確な意思決定に足るデータを集められるものではない
  • 質問や選択肢を目的に沿って適切なものにする方法論が利用する企業に不足している
  • 目的と明確にリンクしない不完全な調査が横行する
  • 適切な回答を得るためのアンケートインターフェースの構築ができない
  • 素人が作ったわずらわしいアンケートが大量に押し寄せ、消費者が回答する意欲をなくす(回答率が下がる)

個人的な所感 DIYは積極的に支持したい

どちらの言い分にも一理あるとは思いますが、否定派の言い分は若干弱いのではないかと思います。と言うのも、どれもリサーチを実施する人間の(DIY)リサーチ経験が不足することによるものが多く、「時間の問題」「改善が期待されるレベル」ではないかと思うからです。多くが技術・知識の問題であり、フレームワーク・システムを用意すれば最低限のレベルには改善されるものではないかと思います。また、クライアントとリサーチ会社間の人の行き来も増えてきている現状で、内製化しうる人材レベルになってきているとも思います。

それ以上に、メリットの方が大きいでしょう。コスト面・効用面での選択肢が広がることは当然ながら、リサーチの本来の目的を考えますと、「MRがリサーチ部門の専売特許ではなくなる」という点が重要であるように思います。顧客の声を拾うのはリサーチが全てではないですが、企業が口だけではなく顧客視点に一歩でも近付くための重要な手段になるのではないでしょうか。上述の『Why DIY Research is Good for Everyone』にある下記の記述に激しく共感です。
Seth Godin is often quoted as saying, “marketing is too important to be left to the marketing department.” DIY research activity tells us, “market research is too important to be controlled only by a market research department.”

既存のMRには答えるべき問いがある

また、DIYの欠点(未発達な点)がある一方で、既存のMRにも当然ながら欠点はあるように思います。例えば下記のような点にリサーチ会社は答える必要があるのではないでしょうか。
  • より複雑でスピーディーな事業展開をするクライアントの事業や業界構造を、本当に外部にいてキャッチアップできるのか
  • 温度計が温度を変えるじゃないが、調査対象と調査主の間に第三者が入ることで事象の解釈のズレや種々のラグが生じるのではないか
  • 大量のペーパーが納品されるものの結果意思決定に使われるのは1枚2枚(場合によってはクライアントが作り直し)
  • 目的を忘れがち、複雑で長い調査票を作るのはむしろ外部プロではないか 等々

DIY 今後の課題

DIYの今後の課題として3つほど思いつくものを列挙してみます。

1つ目は、サンプルの問題です。現在は自社の(何かしらアプローチする手段のある)顧客が主な回答者候補になるはずであり、例えば既存の顧客以外に対する調査等には不十分なサンプルであることは確かです。ただ、ジャストシステムのFastaskは既存リサーチ企業のパネルと連携しているらしく、その点は解消されていそうです。

2つ目は中立性という観点です。上記の記事にはなかったように思いますが、「中立性」というものは外部プロの価値かもしれません。ただ、既存の調査業務の中でクライアントにおもねるような設計や示唆出しを行っていない限りにおいてですが。

3つ目は、コストの観点です。上記にローコストで顧客の声を集められると書きましたが、それはあくまでも調査一回にかかるコストのこと。COPQ(Cost Of Poor Quality)という考え方があるらしいのですが、品質が低い場合に発生しうる追加コストによって、結局トータルのコストが過剰にかかってしまうという現象が起こりえます。例えば、旅客産業のように安全がマストな業界ですと一つの不具合が発見されれば全点検が行われるのですが、このような「やり直し」はDIYリサーチにおいても当初大いに想定されます。これも習熟によっていずれ解決される問題だとは思いますが、企業にとってこれを学習への投資と捉えられるのかどうかという点はポイントなのかもしれません。


個人的には前回/今回のエントリに書いたようにDIYの流れが加速することに賛成ではあるのですが、さてどのようになりますでしょうか。

2 件のコメント:

  1. 論点の整理ありがとございました。参考になりました。基本的にDIYリサーチの拡大は大歓迎です。いずれにしても、「早くて、安くて、うまい(より有効なインサイト)」という調査への3つのニーズのうちの「インサイトの発見」のスキルアップは、DIYにとっても、DIT(DoItThemselves:リサーチ会社による調査)にとっても大きな課題でしょう。

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  2. >岸川様
    コメントありがとうございます!
    「早くて、安くて、うまい」というところで言うと、「うまい」が一番改善・イノベーションが進んでいない領域かも知れませんね。MRがユーザーに開放された今、その進化がDIYとDITのどちらから生まれてくるのかという点も興味深いです。

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