『イノベーションのジレンマ』で紹介されている有名な「破壊的イノベーション」という考え方があります。ここより定義の引用します。
競争市場では一般に製品は技術進化を続け、新製品になるごとに性能を向上させていく。そうした中で既存製品に比べて性能が低いながら、低価格・単純・小型・使い勝手がよいなどの特徴を持ち、既存市場の顧客とは別の顧客から支持される技術革新が行われることがある。これが破壊的イノベーションである。
製薬業界におけるこれに近い事例が、ジェネリック(後発)医薬品(以下、GE)です。割と一般的になってきているので説明は不要かも知れませんが、特許の切れた医薬品(新薬)と基本的には同じ有効成分で他の製薬企業が製造あるいは供給する医薬品のことを指し、ほぼ同等の効果ながら薬価は安く押さえられている点が特徴です。
このGEに関して、面白い流れがニュースになっていました。(会員でないと見られない記事ですが。。)
国内初「オーソライズドGE」誕生へ 日医工サノフィ 「アレグラ」係争中の裏側で独占的に承認取得
これ簡単に要約すると、下記のような内容です。
- 日医工サノフィ・アベンティスというGEメーカーが「オーソライズド・ジェネリック」を発売(承認取得)
- 「オーソライズド・ジェネリック」とは、対象とする新薬にかかる特許が切れていない中で、特許保有企業自ら(および関連企業)がGEを上市すること(今回、特許保有企業は親会社のサノフィ・アベンティス)
- 狙いは、特許有効期間中に他のGEメーカーに先んじて市場に製品を投入することで参入障壁を高くし先行者利益を得ること
医薬品業界は他の業界のように自由市場ではないので、一定の統制(特許期間や薬価等)の中での価格破壊にはなり、且つ日本ではGEの普及が他の先進国に比べて進んでいないと言われていますが、それでも医療費抑制に絡んだ政府の後押し等もあり、徐々に普及は進んできています。
ジェネリック医薬品の国内シェアの年次別推移(過去5年間)
数量:出荷数量
金額:薬価ベース
日本ジェネリック製薬協会調べ
蛇足ですが、アリセプトという認知症治療薬のGEには30社以上ものメーカーが参入するという過当競争な市場でもあります(ソース)。上記のニュースは、そんなGEメーカーの参入をにらんだ打ち手であると理解できます。
通常、新薬メーカーとGEメーカーは基本別プレイヤー(企業)ではあるのですが、最近は新薬メーカーを親会社に持つGEメーカーが増加中です。ただ、子会社を通じて、あえて新薬とのカニバリ(共食い)を承知の上でGEを投入するにしても、これまでは新薬の特許が切れた後でということが通常でした。他の業界でも、例えばハイエンドの市場でIT機器を提供していた企業が、後発メーカーの参入に対抗すべく中小企業セグメントへ対応した機器を発売したりという事例はありますが、新薬とGEで基本的にターゲットセグメント(直接顧客の医師にしても、エンド顧客の患者にしても)は変わりませんから、その点で特殊であると言えます。
更には、今回の記事のケースで言うと、自社新薬の市場が特許規制によって守られている中で、あえてカニバリを起こすGEを自ら投入するということですから、なおのこと特殊であると言えます。加えて、GEが発売されることによって、オリジナルの新薬の薬価が引き下げられる薬価の仕組みもリスクです。これを踏まえてもあえてGEを自ら投入するというところに今回の戦略の面白さがあります。
どのような業界においても、既存事業者が新興企業あるいは新機軸のバリューにいかに対抗しうるか、自らの既存価値の否定(意図的な忘却)を行いイノベーションを創出するか、ということは非常に重要なテーマです。加えて、規制等の特殊な業界事情のある製薬業界で、今後どのような展開が繰り広げられるのか注目したいと思います。
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