過去から様々な人や機関がチャレンジし続けているが、決定的な方法論が存在しない命題の一つではないかと思います。人は大なり小なり未来を予測していて、「明日自分がランチに何を食べるのか」ということもある種の予測ですし(ほぼ意思に近いですが外的要因で結果が左右されることはありえるという意味で)、企業も毎期・毎月何かしらの因子を特定し売上・利益等の業績見通しを予測します。
未来の予測が難しいのは、未来が無数の影響因子によって構成され、その全てを潰すことが難しいためであり、また、大半の未来には人間の行為が関係する、つまり人間という社会的生き物の「感情の動き」や「ホンネ/タテマエ」といった定量化できない要素を考慮する必要があるためであると個人的には思います。
最近見た『Whatever next?』という記事に、この未来の予測に関する内容がありましたので、内容を引用しながら、なぜ未来予測が難しいのかということについて、あるいは今後の未来予測がどのようになっていくのかについて書いてみたいと思います。
・全知全能の人はいない
記事によると、かの有名な発明家トーマス・エジソンは下記のようなことを言っていたといいます。
“We are already on the verge of discovering the secret of transmuting metals… before long it will be an easy matter to convert a truck load of iron bars into as many bars of virgin gold.”
(我々は既に錬金術の秘密を発見しようとしている。近い将来、鉄のかたまりを純金の延べ棒にすることは簡単なことになるだろう。)
現代の科学を持ってしてもそのようなことは不可能な訳ですが、当時エジソンは大真面目に言ったのでしょう。
また、心理学者のフィリップ・テトロックが、20年間に渡り、将来起きうるイベントについての2万8千もの質問を様々な領域における284人の専門家に投げかけ、実際の結果との比較を行う実験を行い、専門家の予測能力は槍投げをするチンパンジーレベル(要は的に当たらないという意かと)だと結論付けたそうです。
時には断片的に未来を正確に予測する識者もいるのでしょうが、総じて未来を予測するために必要となる全ての影響因子を考慮できる全知全能の人はいないと思われ、心理学者のダニエル・カーネマンが言うように、“We knew as a general fact that our predictions were little better than random guesses"(予測は当てずっぽうよりも多少当たるくらい)なのだと思います。
・集団(群集)の声を聞けばよいかというとそうでもない
それでは、限られた識者に聞くことでまかなえないのであれば、より多くの人の声を集めれば事足りるのでしょうか。その代表的な手段の一つがマーケットリサーチになるかと思いますが、これは果たしてクライアント企業が未来に触れることを助けることに繋がるのか、それとも同じくチンパンジーの槍投げなのでしょうか。
記事では、新製品の失敗の多さを取り上げ、リサーチ(多くの声の回収)が未来を予測できるのであれば成功する新製品を世に送り出せるはずというところから、できて失敗の確率を減らすことくらいと書かれています。当然リサーチを起点として成功した新製品という例外もあるかと思いますし、リサーチ一発で成功ということではなく、トライアル&エラー(仮説検証)を繰り返すことで正確な未来に近付くということを前提にしているということもあるかと思います。
ただ、いわゆるこれまでのリサーチというものは、定量/定性問わず非常にスタティック(静的)なものであるため「変化」を十分に捉えることが難しく、程度の差はあれ外的な影響を全く受けない「ホンネ」や裏にある「感情」を引き出すことが難しく、また集められる声の「数」にも限界があったように思います。予測する未来を人の行為が構成する以上、これらのことを満たせない限り十分な未来の予測は難しいのかも知れません。
・明日の自分のランチよりも、世の中で明日何がランチに最も選ばれるか予測する方が当たる?
未来の予測において、リサーチが限界に直面する一方で、"wisdom of crowds"(クラウドの知恵)という考え方が出てきています。
※このあたりは『クラウドソーシング』という書籍に詳しいです
"wisdom of crowds"とは何か。記事によると、一言で言うと下記のようなことになります。
This is the idea that the predictions of everyone in a group about what the group as a whole will do are better than the predictions of each individual about what they themselves will do.
(ある集団の全員で集団全体としてどうするかを予測する方が、個々人がそれぞれ自身がどうするかを予測するよりも、より良い予測となりうる)
つまり、よくアンケートにあるように、「あなたはこの商品を買いますか?」とか「この商品をどう思いますか?」といったことを個々人に聞き、結果を集計するのではなく、「この商品は売れるかどうか?」ということを集団に予測してもらうという手法です。具体的には、製品の売上や選挙の行方を先物市場の取引に見立てて売り買いしてもらうという手法が実験的に行われているようです。「美人投票」にも近い考え方かもしれません。(少し説明がわかりにくいかも知れないので、Wikiの解説にリンクしておきます)
例)
選挙結果の予測市場:The Iowa Electronic Markets
※ちなみに米共和党大統領候補選挙についても、ロムニー候補の人気が依然として高いと予想が出ているようです。果たして当たるのかどうか。
記事中に、"you can predict what other people will have for lunch tomorrow better than you can for yourself "(他の人々が明日ランチで何を食べるか予測する方が、自身が明日何を食べるかを予測するよりも上手くいく)とあったのですが、面白い表現だなと感じました。つまり、明日の自分のランチは豚のしょうが焼き定食だという予測よりも、東京のサラリーマンが明日最も多くランチに選ぶのはラーメンだと予測する方が当たる可能性が高いということです。
・集団(群集)の声を聞く方法にも進化はある
リサーチの限界について上記しましたが、手法の進化によってその欠点をカバーするものも出てきています。過去のエントリでも取り上げているので詳述は避けますが、ソーシャルメディアリスニングやビッグデータといったところがそれに該当します。クラウドの原則的な考え方である「多様性はある一人の際立った能力に勝る」(言い換えると多様性は代表性に勝る?)に通じます。これらによって現行のリサーチの問題点である「変化」「ホンネ」「感情」「数」といったところをカバーできる可能性があり、これらを活用した未来予測(比較的近い未来かも知れませんが)に期待が膨らむところです。
実際に、ソーシャルメディアのつぶやきをベースにした選挙結果予測や投資信託運用といったところも実験されているようですので、ご参考までに。
例)
ソーシャルメディアをベースにした選挙結果予測:Tweetminster
ソーシャルメディアをベースにした株式市場予測:株式市場変動の予測(ホットリンク)
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