以前、DIYリサーチ(クライアントがリサーチ会社を通さず自らオンラインでアンケート質問を登録し、消費者にダイレクトにアプローチできるサービス)の流れということで、下記のような記事をエントリしました。
BtoBにおける「DIY(Do It Yourself)」の事例 -DIYリサーチに考える-
「DIY(Do It Yourself)」への賛否 -DIYリサーチに考える(追補)-
上記でご紹介したのは、定量調査のDIY版でしたが、どうやら定性調査のDIY版(オンライン)もあるようです。(知りませんでしたが、有名ですか?)
何がその領域でメジャーなサービスなのかは知らないのですが、その一つが「GutCheck」です。ホームページを参考に、下記に概要を書き出してみました。
・サービス概要(やれること)
基本的にはDIYの定性リサーチがオンライン上で可能なサービス。事前のスクリーニング質問で絞られた対象者に対してチャットを活用して1回30分のチャットインタビューを行えるとのこと。
・4つの価値
1. FIND YOUR AUDIENCE
しっかりとした回答をするとスクリーンされた600万人のパネル。「高血圧のアジア系米国人SE」のようなセグメンテーションも可能とのこと。
2. WE UNDERSTAND BUDGETS ARE TIGHT
30分のインタビューが40ドルから。これまでのフォーカスグループインタビュー等では一人当たり500ドル以上というのが相場であり、かなりリーズナブルとのこと。
3. STOP WAITING TO START YOUR PROJECTS
何かを検証したい時、デッドラインが迫っているとき、「その日」と言わずに「今」インタビューができる。やりたいと思ったその時にやれるという価値。
4. QUALITATIVE RESEARCH ON YOUR TERMS
回答者が2人であろうと40人であろうと、時間が朝であろうと夜であろうと、セルフであろうとフルサービスであろうと、やりたいようにやれるという価値。
・想定顧客・ユースケース
想定顧客は大きく消費財メーカーと中間事業者であるエージェントを想定しているようです。
ユースケースとしては、コンセプトやメッセージ・広告等の各種クリエイティブのちょっとしたテストをメインに想定しているようです。ブレストを行うにあたってのアイデアをもらうというような使い方もあるとのこと。
①消費財メーカー
・Concept Testing
・Advertising Testing
・Product Development
・Ideation
・Package Design Testing
・Messaging Testing
・Web Testing
②エージェント会社(マーケ会社、広告代理店等)
・New Business Pitches
・Advertising Storyboard Testing
・Creative Concept Testing
・Package Design Testing
・Messaging Testing
・利用の3つのステップ
下記のステップで、ユーザーがセルフでWeb上にて設定・実施を進めていきます。
Step 1: Identify Your Audience:対象者を特定する
デモグラフィック等のベースクライテリアとカスタムの質問を通して、インタビュー対象者を特定する
Step 2: Create Your Questions:質問を作りチャットインタビューする
プリセットされた基本的な質問とフリーで追加できる質問をセットし、チャットベースでインタビュー(30分)を行う
Step 3: Review the Results:結果を見る
30分のインタビューが終われば、PDFの議事録が自動で生成されるので、確認や共有を行う
下記の紹介動画で流れはイメージできます。
・CEOのインタビューより市場環境や展望
『The CEO Series: An Interview With Matt Warta of GutCheck』にCEOのインタビューが掲載されています。ポイントを書き出しておきます。
- まだ定性オンラインリサーチはキャズムで言うと「アーリーアダプター」のフェーズ
- オンラインで実施される定性調査はまだ全体の15%のみ
- 定量調査で、オンラインを一度でも体験すればその迅速さとお手ごろさから利用が進んだ流れは、定性調査でも来ると予想
- 昨年あたりからビッグブランドとのディスカッションが増えており、幾つかの定性はオンラインに移行中(2年前にはなかったこと)
- 2011年にローンチしてから、既に100以上の消費財クライアントと多くのエージェント会社の利用あり
- 従来のマーケティングリサーチ市場は「サービス・ベース」(労働集約的)だったが、「テクノロジー・ベース」になってきたのでスケールすることが可能に(CEOは元テック系ベンチャーキャピタリスト)
- Instant Research Communities (IRC)というより広義の定性リサーチコミュニティを検討中で、その中で色々な調査の可能性(モバイル、ゲーミフィケーション、ビデオ等)を探る予定
以上が、大まかなサービスの中身、および展望です。どうでしょうか。
できそうなこと、できなさそうなことがあるように思いますが、事業会社(クライアント)が直接消費者にサクッと手軽に声を聞きたいという需要はありそうです。
例えば、フォーカスグループをする際、これまでは基本的にはリサーチ会社に依頼しリアルの世界で実施されるのが通例かと思います。幾つか課題もあるようで、マジックミラー越しにインタビューの様子を見ながら「あれ聞きたい」「これ今確認したい」といったことがクライアントに出てきた場合、即時にその時の文脈の中で聞くことは当然できませんし、メモを入れても聞くタイミングを逃したり、流れ上入れ込むことができなかったりということが発生してしまう、というケースがあるように聞きます。あるいはクライアントの意図を上手くリサーチ会社のファシリテーターが汲み取れずに見当違いの文脈で聞いてしまう、ということもあるかもしれません。より直接的に文脈のわかるプロダクト担当が温度感のある消費者の声を聞き洞察する意味は大きそうです。
一方で、短時間のテキストベースのやり取りで、どれだけのコミュニケーションの深堀りが可能かというところは少し疑問ではあります。さらに、ユースケースとして書かれていたProduct Development(製品開発)、Ideation(アイデア創造)といったところについては、何か工夫が入らないとちょっと。。
いずれにしても、定性面でもこのような直接的な消費者とのコミュニケーションの手段が出てきたことは、事業会社(クライアント)、リサーチ会社双方にとって重要なニュースなのではないかと思います。
詳細な紹介有難うごさいます。毎度詳細な説明に感心し、参考にさせていただいております。私も我々が毎月実施しているJMRX勉強会(2011年2月度)でごく簡単に紹介したことがあります。(7頁)http://www.slideshare.net/ShigeruKishikawa/jmrx 対象者とリンクしているところがすごいですね。グルインで時間とコストがかかるリクルートを簡略させることはCEOも強調しているようにすばらしいアイディアだと思います。しかし、日本では、オンライン・グルインですら普及しない状況ですので、なかなか普及は難しいでしょうね。またリクルート(参加者)の質に文句をつける人も現れそうです。でも、目的によって、使いわける時代が遠くない将来にはきそうだと思います。現時点では、ある部分、MROCで代替えできる部分もあります。日本ではほとんどのリサーチャーがまだ知らないでしょうが、欧米のオンライン関連のリサーチャーでは有名な企業です。先日も毎週行われるNewMRのイベント(1月31日)にゲストとしてCEOのMattがでていました。http://newmr.org/newmr-radio-2011/
返信削除>岸川様
削除コメント頂戴し、ありがとうございます。リンクいただいた資料拝見いたしました。
「使い分け」という点、私もそのように思います。知らないだけで色々な企業や手法がありそうです。
個人的には、CEOのインタビューにもありましたが、こういったテクノロジードリブンの企業(調査が出自でない企業)が、リサーチャーの頭数依存でスケールの難しい従来のビジネスモデルとは異なるモデルに、ビジネスとしての可能性を見出している点が興味深いと思っています。