さて、今回のIPO申請に合わせて、ザッカーバーグ氏から(将来的な)株主に向けたレターが発行されており、こちらも日英ともに全文が公開されています。
・英語全文:
Zuckerberg to Potential Shareholders: Facebook Is on a Social Mission(Mashable)
・日本語全文:
企業文化は「ハッカーウエー」、速く・大胆に・オープンであれ フェイスブック上場へ、ザッカーバーグCEO「株主への手紙」 (日経電子版)
レターの中で多くの部分を割いて書かれているのは、上場の理由や事業戦略というよりも、Facebookの大切にする価値観や今後のソーシャルのあり方といった部分です。以下に、その中心となる「ハッカーウエー」という考え方について述べられている部分を引用します。
(前略)私たちは「ハッカーウエー」と呼ぶ独自の文化と経営手法を育んできました。
「ハッカー」という言葉はメディアでは、コンピューターに侵入する人びととして不当に否定的な意味でとらえられています。しかし本当は、ハッキングは単に何かを素早く作ったり、可能な範囲を試したりといった意味しかありません。他の多くのことと同様に、よい意味でも悪い意味でも使われますが、これまでに私が会ったハッカーの圧倒的多数は、世界に前向きなインパクトを与えたいと考えている、理想主義者でした。
ハッカーウエーとは、継続的な改善や繰り返しに近づくための方法なのです。ハッカーは常に改善が可能で、あらゆるものは未完成だと考えています。彼らはしばしば、「不可能だ」と言って現状に満足している人びとの壁に阻まれますが、それでも問題があればそれを直したいと考えるものなのです。
ハッカーは長期にわたって最良とされるサービスを作るために、一度にすべてを完成させるのではなく、サービスを機敏に世に出し学びながら改良することを繰り返します。こうした考え方に基づき、私たちはフェイスブックを試すことができる何千通りもの仕組みを作りました。壁には「素早い実行は完璧に勝る」と書き記し、このことを肝に銘じています。
ハッキングはまた、本質的に自ら手を動かし続けることを意味します。何日もかけて「新しいアイデアは実現可能か」「最良の方法は何か」を議論するよりも、ハッカーはまず試作品を作り、どうなるかを観察します。フェイスブックのオフィスでは「コードは議論に勝る」というハッカーのマントラ(呪文)をしょっちゅう耳にするはずです。
ハッカーの文化は、非常にオープンで実力主義重視です。ハッカーは、最も優れたアイデアやその実行が、常に勝つべきだと考えています。陳情がうまかったり、多くの人を管理している人ではありません。
出典:フェイスブック上場へ、ザッカーバーグCEO「株主への手紙」 (日経電子版)より
上記は、企業と顧客(消費者)の関係や商品・サービス作りの今後を示すだけでなく、これまで企業と顧客の間に入り顧客の声を仲介していたマーケティング会社やリサーチ会社のあり方にも一つの問題提起をしているように思います。例えば、企業と消費者の変化に対して、下記のような疑問が生じてきます。リサーチ会社は外部プロフェッショナルとしてどのような答えを出せるのでしょうか。
スピードを重視
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インサイダーでなくて、このスピード感の中でクライアント企業の事業やサービスをキャッチアップできるのか?
調査を企画してから報告書があがるまで1ヶ月とか到底待てないのでは?
何回も検証・修正を繰り返す(1回で結論を出さない)
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小規模な改善活動の繰り返しになる。1回当たりの案件規模が縮小し、調査を繰り返すリソースのみがかかることで、案件が非効率化しペイしなくなるのでは?
アクションを重要視(「素早い実行は完璧に勝る」「コードは議論に勝る」)
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良くも悪くも第三者として情報の提供に終始することに対して、価値を見出してもらえるのか?(コモディティ化していくのではないか)
直接世の中(消費者)の声を聞く
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クライアント企業に、間に外部企業をはさむ必要性が薄れるのではないか?
中央管理的ではない(オープンである)
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クライアント企業内でいわゆる「リサーチ部門」の機能が縮小あるいはなくなることもあるのでは?(ラインが各々顧客に対峙する)
当然ながら、例えばマーケットの定量的な把握のような調査は依然として外部プロフェッショナルの牙城であり続けるのだと思いますが、より「顧客の声」に近い部分については自前化の動き(更には企業内でもリサーチ部門ではなくライン部門へのリサーチ機能の移行)が進むような気がしてなりません。以前エントリした(その①、その②)ように、DIY(Do It Yourself)リサーチという手段も充実してきています。また、消費者を組織化し、アプリやWebサービスのβ版テストを行う環境を提供する事業者もあるようで、ハッカーウェイの文脈における調査会社の代替となってくるのかもしれません。
このような価値観がソフトウェアやインターネットの世界を超えて、消費財や自動車といった「モノ」にも波及していくのかどうかも気になりますね。
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